友人の話では、引っ越して間もない部屋にポツリと置かれたブラウン管のテレビを購入した際の段ボールをテレビラック代わりに使用していたのだが、突然段ボールの内側を誰かが強く叩いたというのだ。それを聞いて私と友人は恐る恐る中を覗いたものの、当然人っ子一人いない。さすがにこれには友人もかなり驚いたようで、この部屋を退去するよう勧めてきたが、私は実害はないとしてその提案をさらりと受け流した。
だが、この日を境に怪奇現象が勢いを増してゆく。ラップ音が激しくなったり、消したはずのテレビが点いていたり、誰もいないはずなのに誰かの声がしたり、置いたはずのモノが無くなったり。さすがに“声”は不気味だったが「おい」とか、せいぜい一言二言の呼びかけがほとんだったこともあり、ラップ音の延長だとあまり気にならなかった。物が無くなるのは地味に困ったが、まぁ自分の管理も良くないのでそこは何とも言えないが。
そして段ボール事件から1週間程過ぎたある日、私は妙な夢を見た。
夢のなかで私は、あたりに何もない乾いた原っぱのような場所に立っていた。目の前に真っすぐ伸びた砂利道がどこまでも続いており、その道をひらすらに歩いていく。しばらく歩いていると、右前方に平屋の古びた住宅。崩れそうなブロック塀に囲われた赤いトタン屋根の掘っ立て小屋のような家の玄関先に60~70代くらいの坊主頭の男性が立っていた。その男性が玄関に手をかけて家の中に入ろうとしている。その様子を少し離れたところから、私はじっと眺めていた。すると男性が、視線を私に移してこう言い放った。
「・・・〇〇日の金曜日にまた来るからな」 ※〇〇は不明。
その一言で、私は目を覚ました。悪夢を見たときのように心臓はバクバクと音を立て、額からは大粒の汗が流れた。
“不気味な夢を見た”
何とも言えない後味の悪さを感じていると、ふと枕元に人の気配を感じた。当時、中国人の窃盗団が世間を騒がせていたこともあり、こんなボロ家にも入り込んだのかと恐怖した。その気配はじっと動かず私の枕元に立っている。これは下手に刺激せず、このまま寝たふりをしてやり過ごすのが吉と思い、息を潜めじっとしていると、その不気味な気配は私の左側を通り足元のドアに向かって行った。(このときのことを冷静に思い返すと足音一つしなかった)
“あぁ、バレずに済んだ”
そう安堵したものの、気配は足元にぴたりと止まりまるで動こうとしない。寝たふりがバレたか?と不安に駆られ薄目を開けて気配の正体を確認しようとした瞬間、私は金縛りに襲われた。
身体を両端からぎゅっと押しつぶされるような強い力で身動きが取れず「ブオン・・・ブオン・・・」と機械音のような音が頭の中で鳴り響く。声一つ出せない恐怖に、私は心のなかで適当なお経をあげ、誰かに救いを求めていると・・・
「お~い、いるか?」
友人の声が聞こえた。その声が聞こえたと同時に、金縛りがふわっと解けた。私は急いで玄関に向かい、ドアを勢いよく開けた。そこにはへべれけ状態の友人が立っていた。
「こんな時間にわりぃ。借りてたゲームを返しに来た~」
部屋を整理していたところ、大分前に借りていたゲームを見つけたので、また忘れる前に返そうとわざわざ電車に乗ってやってきたそうだ。真っすぐ私の家に向かおうと思いきや、駅前のガールズバーで軽く一杯やるつもりがつい時間を忘れたとか。何ともバカらしい話ではあるが、その友人のおかげで私は金縛りの恐怖から助かった。
それからというもの、ほぼ毎日金縛りに襲われた。それも昼夜問わず・・・だ。来る日も来る日も金縛りに襲われるようになると、かかる瞬間がわかるようになっていく。一体どうしてこんなにかかるものかと思っていると、今度は原因不明の眩暈に苦しむことになった。ある晩、布団の上に横になったところ前の前がグルグルと回り出した。スイカ割でバットを支柱にしてぐるぐる回った経験をしたという方は少なくないと思う。あの目が回った状態がずっと続くのだ。最初こそ一晩立てば治ると思ったが、それは数日続いた。症状が重くなったり軽くなったりすることはあったものの、基本的にずっと目が回る状態が続くのだ。さすがに脳の病気かと思い、大きな病院で精密検査を受けたものの原因不明と診断された。
かくしてこのような怪奇現象に襲われること数か月、この話をすると決まってこう言われるようになった。
「もしかすると、家から追い出そうとしてるのでは?」
確かに、考えてみるとそうかもしれない。再三の嫌がらせともいえる怪奇現象は、私を追い出そうとしたとも考えられる。だが、ここに留まったのには理由がある。親からもそんな危ない家に住むなと再三言われたものの、一番の理由は引越が面倒だったこと。それにどこか意固地にもなっていたと思う。そのうち諦めるだろう、そう高を括って生活を続けた。そして、ついにあの体験に辿り着く。
これから話す実体験をもって、大きな怪奇現象は終わりを告げる。しかし今思い返しても、これが現実に起きたことなのか、それとも夢の出来事なのかは定かでない。それを踏まえて読み進めていただければ幸いである。
私が昼寝をしていたときのことだ。いつか見たあの坊主頭の男性が出てきた夢の続きを見ていた。私をじっと睨みつけるように凝視していた男性は、無言のまま家に入っていく。私はその様をただじっと見つめていた。そのとき男性が前回の夢で言った
「・・・〇〇日の金曜日にまた来るからな」
という言葉がふと思い浮かんだ。そんなことを言われる覚えもない。そもそもあの坊主頭に見え憶えすらないのだ。そんなことを思いながら歩いていくと、家のすぐ真横にいた。間近でみる家は、さらにみすぼらしかった。屋根の塗装は至る所が剥げ、玄関の引き戸は傾き、窓ガラスが割れている。こんな廃屋みたいなところにあの男は住んでいるのかと思ったら、妙に憐れに感じた。そうして家を通り過ぎようとしたとき、腕を誰かに捕まれた。振り返るとあの男が物凄い形相で私の腕を掴んでいたのだ。そのときの表情はこの世のものとは思えない程、憎しみと怒りに満ちた形相だったのをはっきりと覚えている。
作者とくのしんです。
こちらのお話は少し設定を変えていますが、私の実体験に基づくものです。
お話には書いておりませんが、最初住んでいたアパートでも実は金縛りに逢いました(笑)
それ一回こっきりだったのですが、まぁ人生初めてでしたのでかなり怖かったです。急に目が覚めたと思ったら、目の前に黒い人影が立っていて、「ブオン・・・ブオン」という耳鳴りがだんだん大きくなっていったのを覚えています。
それとは別に幼少期に住んでいた家では、誰もいないのに名前呼ばれたり、水道が勝手に流れたりする家でした(笑)
そこも別に事故物件という話は聞いていないんですけどね。思い返すとかなり不気味な家だったのを記憶しています。
そういうところに当たりやすいんでしょうかね?
一応今住んでいるところではそういう類のものはいないと思います。
安くて古くて違和感ある所は、要注意ですね。
湖のくだりが好みです。
>安くて古くて違和感ある所は、要注意ですね。
全くです(笑)
>湖のくだりが好みです。
今でもはっきりと思い出せるくらい、空から湖へと続く光の柱が神々しかったのを覚えています。神々しいなんて表現普段ほとんど使いませんが、そんな表現でしか言い表せない程美しい光景でした。あの光景を間近で見なければいけないと思わされるくらいだったから、本当にあの世の境だったのかなぁとしみじみと思いますね。
とくのしん
神秘的な怖い話やな
怖いですね
1年間連続で大賞受賞することができました。これも皆さまの投票のおかげです。
少しお休みしますが、充電期間が終わりましたらまた投稿したいと思います。
ありがとうございました。
すごく面白かったです。その家はどこにあるんですか。
怖いけどなんだか少し興味のある話ですね。
その後のお身体の調子はいかがですか?
めまいなどはありませんか?
すごく怖っ!って思っていました。
怖いね
宗教は怖いにょ
宗教には気をつけなあかんな