そこで私は飛び起きた。得体の知れない恐怖に襲われ、私の心臓は前回同様に激しく鼓動を打っていた。呼吸も荒く、息を整えようと深呼吸をしたときに私はあることに気づく。それは本能的に察知したのだろうか。
“心臓が止まる”
今もって謎だが、なぜか唐突にそう理解した。私は大きく息を吸い込み、自分の胸を強く叩いた。何度も何度も何度も何度も強く叩いた。それも虚しく徐々に息苦しさを感じ始める。上手く呼吸ができない。細る呼吸と共に心臓の鼓動が小さく、弱々しくなっていくのを感じた。
“あぁ、もうダメだ。死ぬ”
トクン・・・トクン・・・・・・・・トクン。最後に小さく脈打った鼓動の感覚は今でも忘れない。
意識が戻ったとき、私は薄く霧がかった石階段の中腹に立っていた。人気の無い辺りを見回すと、上った先に寂れた温泉街が見え、下った先は階段が延々と続いていた。どちらに向かうか迷っていると、真横に脇道があることに気づいた。
脇道が気になり先を進むと、松林が延々と続く山道というか林道のような場所に出た。景色はセピア色で、色味は全くない。白黒写真のような風景の中を当てもなく歩いていく。どこに繋がるかも定かでない道をただただ真っすぐ進む。ふと右手の松林の木々の隙間から、大きな湖が見えることに気づいた。空は厚い雲に覆われているが、その雲の隙間からいくつもの光の柱が水面に立っている。そのあまりにも神々しく美しい光景に、私は目と心を奪われた。
“あの光景をすぐ近くで見なくてはならない”
そんな衝動に駆られ、私は足を早める。木々の隙間から見える光景を横目に進むと、分岐に差し掛かった。右手には湖方向へ道が続いている。また、分岐点には背丈以上あろうかという一枚板の立て看板があり、そこには
「芦屋湖はこちら」
赤い色の手書き文字でそう記されていた。周りがセピア色にも関わらず、その文字だけが真っ赤だったことを憶えている。
一つ補足しておくが、神奈川県の箱根には“芦ノ湖”という湖が存在する。ただ“芦屋湖”という湖は存在しない。また私は神奈川県民でもない。箱根とは縁遠く、今まで一度もその地を訪れたことがないことをご承知頂きたい。
話は戻りその分岐を曲がり、ひたすらに歩みを進めた。1分でも1秒でも早く、あの湖のほとりに辿り着きたい、その一心だった。しばらく歩いていくと、一軒の商店が見えた。
昭和ながらの駄菓子屋といった造りをした商店の左手に、先程の分岐点と同様の立て看板があった。
商店の入り口はガラス戸の引き戸になっており、商店内を一望できた。見たところ店内に人気はない。ガラス戸の先は広い土間があり、その奥正面に和室、右手には暖簾が掛かった部屋。左奥に勝手口があり、開いたままのドアの先には道がさらに続いている。その道に沿うようにあの湖が見えた。私は逸る気持ちを抑えきれず、商店のドアを開けた。
「ごめんください」
引戸を開けて私は商店の主に向け声をかけた。しかし、返事はない。そのまま一歩足を踏み出し店内に入った。そのまま様子を伺うが、相変わらず人気は全く感じられない
「ごめんください」
作者とくのしんです。
こちらのお話は少し設定を変えていますが、私の実体験に基づくものです。
お話には書いておりませんが、最初住んでいたアパートでも実は金縛りに逢いました(笑)
それ一回こっきりだったのですが、まぁ人生初めてでしたのでかなり怖かったです。急に目が覚めたと思ったら、目の前に黒い人影が立っていて、「ブオン・・・ブオン」という耳鳴りがだんだん大きくなっていったのを覚えています。
それとは別に幼少期に住んでいた家では、誰もいないのに名前呼ばれたり、水道が勝手に流れたりする家でした(笑)
そこも別に事故物件という話は聞いていないんですけどね。思い返すとかなり不気味な家だったのを記憶しています。
そういうところに当たりやすいんでしょうかね?
一応今住んでいるところではそういう類のものはいないと思います。
安くて古くて違和感ある所は、要注意ですね。
湖のくだりが好みです。
>安くて古くて違和感ある所は、要注意ですね。
全くです(笑)
>湖のくだりが好みです。
今でもはっきりと思い出せるくらい、空から湖へと続く光の柱が神々しかったのを覚えています。神々しいなんて表現普段ほとんど使いませんが、そんな表現でしか言い表せない程美しい光景でした。あの光景を間近で見なければいけないと思わされるくらいだったから、本当にあの世の境だったのかなぁとしみじみと思いますね。
とくのしん
神秘的な怖い話やな
怖いですね
1年間連続で大賞受賞することができました。これも皆さまの投票のおかげです。
少しお休みしますが、充電期間が終わりましたらまた投稿したいと思います。
ありがとうございました。
すごく面白かったです。その家はどこにあるんですか。
怖いけどなんだか少し興味のある話ですね。
その後のお身体の調子はいかがですか?
めまいなどはありませんか?
すごく怖っ!って思っていました。
怖いね
宗教は怖いにょ
宗教には気をつけなあかんな