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ヒトコワ

とくのしんさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

兼平さんはタクシーを使わない。
長編 2024/10/01 10:46 2,413view
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私が実話系のルポライターをやっているとき、同業に兼平さんという方がいた。兼平さんは足が悪く、いつも左足を引きずるように歩いていた。確か障害手帳をお持ちだったと記憶している。しかし、それを感じさせない程バイタリティ溢れる方で、噂があればどこにでも足を運んでいく。その姿勢には随分と勉強させられたものだ。

ある時、地方の取材にご一緒させていただいたことがある。当日から雪の予報が出ていたため、新幹線と電車を乗り継いで目的地へと向かうことにした。目的地付近の駅に着いた頃には大分雪が降り積もっており、その後の移動手段と考えていたレンタカーは、兼平さんの手配ミスで借りることができないことが判明。兼平さんがタクシー嫌いというのは存じていたが、移動に際し私が料金を持つのでタクシーを提案すると兼平さんは頑なに拒否をした。最初は遠慮しているものと思っていたのだが、頑として意地でもタクシーを使おうとしない兼平さんがあまりにも大人気ないのではと憤った。その時は私も20代後半と今よりもずっと若かったこともあり、兼平さんのミスに言及し口喧嘩をする羽目になってしまった。

結局その日は取材を行わず、お互い同じホテルだったものの一言も口をきかず、それぞれの部屋へと戻ることになった。部屋に戻り少し頭を冷やした私は、年長者の兼平さんに対し失礼な態度を取ってしまったことを後悔していた。謝罪をしようと、兼平さんの部屋に向かおうとすると携帯が鳴った。兼平さんからだった。

「先程は大人気なく大変申し訳なかった」
開口一番、電話口で兼平さんが謝罪をしてきた。謝るべきは私であったことを伝えるが、兼平さんは自分が悪いにも関わらず口汚く罵ってしまったと何度も謝罪をしてきた。実際は言うほど罵られたわけでもなく、それは兼平さんの思い過ごしなのだが。
電話口でお互いが謝罪を繰り返すだけなので、それじゃ仲直りの意味も込めてこれから飲みにでも行きましょうということになった。

時刻はまだ21時手前。駅前のネオンは煌々と輝いている時間だ。
先にホテルのロビーで待っていると、バツの悪そうな表情を浮かべた兼平さんがやってきた。私もかなりバツが悪かったこともあり、そこでも謝罪合戦をしたあと、近くの居酒屋に移動した。酒を交えながら翌日以降の取材の打ち合わせを行い、概ね予定について確認が終わった頃・・・。

「話を蒸し返すようで悪いんだが、タクシーの件なんだけどね・・・」
そう兼平さんが口火を切った。タクシーに乗らない理由を聞いて欲しいとそういうのだ。

「今から10年くらい前かな。私がまだ30代半ばだった頃の話だ。
当時、私は週刊誌の記者をやっていたんだが、ある失踪事件について取材をしていた。その失踪事件というのが、女性看護師が忽然と行方不明になった事件でね」

ここからは大分話が長くなるので要約させていただく。

女性看護師Aは夏休みを利用して、実家に帰省することを母親に連絡。
帰省当日も母親に出発前に連絡を入れており、その日の午後13時頃に最寄り駅に到着することを伝えている。が、この連絡を最後に行方がわからなくなった。予定通りに駅の改札を出るところまでは監視カメラでも確認できているのだが、これが確認された最後の姿となった。改札を出たあと、タクシーに乗って実家とは真逆のキャンプ場方面に向かったことがわかっているが、その後のAの足取りは全くわかっていない。

しかも不自然なことに駅に到着後、母親が迎えに行くことになっていたにも関わらず、Aはタクシーに乗車している。Aを乗せたタクシー運転手Tの話では、“キャンプ場で人と待ち合わせをしている”と話をしたという。駅から1時間程の距離にあるキャンプ場にAを降ろしたのが14時頃とされているが、キャンプ場は夏休みとはいえ平日ということもあり、当日の利用客は3組。閑散したキャンプ場でAを目撃したものは管理人含め誰もいなかった。ちなみに母親の話では、帰省を知らせたときも帰省当日の連絡時も変わった様子はなく、人と会う予定については一切聞いていない。

一方母親は、予定時刻になっても連絡がないAに午後13時30分頃に電話をしている。呼出音は鳴ったものの、応答することはなかった。次に連絡したのが14時頃だが、そのときには電源が入っていない旨のアナウンスが流れている。17時頃になっても姿を見せないため、母親は父親とともに警察へ捜索願を出した。

警察は翌日より捜索を開始。忽然と姿を消したAが何ならかの事件に巻き込まれた可能性があるとして、すぐに公開捜査に踏み切った。200人を動員して、キャンプ場付近を徹底的に捜索したものの、Aの痕跡は何一つ見つからなかった。そして今もAは見つかっていない。

「その事件で関与が疑われたのがある新興宗教でね。キャンプ場近くに教団の施設があったんだ。キャンプ場付近では信者がよく出没しては、利用客とトラブルになっていたこともあって疑われた。Aと団体を結びつけるものはなかったものの、何ならかの理由で拉致されたのではないか?という憶測まで流れた。
また、最後にAと接触したというタクシー運転手Tも疑われた。このTという男、タクシー運転手をする前にある事件を起こしているがことがわかってね。それが強姦事件だったんだよ。近所の女子大学生に乱暴し、実刑判決を受けている。出所後にタクシー運転手になっているんだが、前科もあったことからAを言葉巧みにタクシーに乗せ、人気のないキャンプ場付近で乱暴したのではと噂された。実際このTと男は、かなりの色男でね。事件当時40代半ばだったが、30代前半でも通るような顔立ちをしていた。

実際に警察もマークしていたようで、Tには何度か任意で事情聴取を掛けている。しかし、Tにはアリバイがあり、Aを乗せたとされるあとに別の客を乗せていることがわかっている。例えばAを殺したとしても証拠隠滅する時間はなかったというのが警察の見解なんだ」

結局、手掛かりらしい手掛かりもなくAは忽然と姿を消した。
その事件の概要を聞きながら、兼平さんのタクシー嫌いにどんな接点があるのか私が考えていると、兼平さんが察したらしく私に言った。

「事件の担当記者だった私は、現場のキャンプ場付近に何度か赴いた。また、最後の目撃者とされるTに取材を申し込んだが断られてね。だけど本当に偶然だけど、たまたまキャンプ場に向かうときに摑まえたタクシーの運転手が、なんとTだったんだよ。

私は記者ということを隠して、それとなく事件について遠回しに聞いてみた。Tは当たり障りのないことを答えていたっけ。それで核心に迫るべく私は思い切って記者であることを明かし、話を聞いてみることにした。大きな通りで赤信号にひっかかったときに、私は記者であることを明かしたんだ。Tは大変驚いていたよ。一度私に振り返ったあと、絶句したように口を噤んでしまってね。そして私がAについて質問をしたときだった・・・。

ゴー!
ヨン!
サン!
ニー!
イチ!

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