私、幼稚園のころ父の仕事の関係で、母と二人でアパートに暮らしていたんです。4.5歳くらいの時なので、当時のことはあまり覚えていないのですが、「あかねちゃん」という友達がいたことは、よく覚えています。
あかねちゃんは、幼稚園とアパートが同じで母親同士も仲が良かったんです。
幼稚園から帰った後、母たちがリビングでテレビを見ている。その横で私たちはお絵描きやおままごとをして遊んでました。
ただ、小学校に上がる前に私は引っ越すことになってしまい、あかねちゃんとはそれきり、疎遠になってしまいした。
最近、実家を建て替えることになって、家の大掃除をしたんですね。
その時に古いアルバムがでてきたんです。
ページを捲ると幼稚園時代の写真があって、懐かしいなと思ってアルバムを眺めてたんですけど、あかねちゃんの写真が、一枚も無かったんです。
あれ? と思いました。幼稚園も一緒だったし、うちで何度も遊んでいたのだから、一枚くらい写真があってもおかしくない筈なのに。
私は不思議に思い、母に聞いてみました。
「ねえ、あかねちゃんの写真って残ってないの?」
「…あかねちゃん? だぁれそれ」
最初は冗談かと思いました。でも、母は本当に知らないという顔をしていたんです。
「あかねちゃんだよ。ほら、幼稚園の頃に仲が良かった。家に遊びに来てたし、お母さん同士も仲が良かったよね?」
母は怪訝な顔で答えました。
「誰の話? あんた、あの頃すごく引っ込み思案で、あまりお友達と遊ばなかったでしょ? 家に呼ぶほど仲の良い子なんていなかったじゃない」
そんなはずはありません。私は確かに、あかねちゃんと一緒に遊んでいました。母たちがテレビを見ている横で、お絵描きやおままごとをしたり——。
でも、ふと気づきました。母親同士が話しているところを、私は一度も見たことがなかった気がします。
「でも、同じアパートに住んでて…」
「あそこ社宅よ。ご近所はみんな顔見知りだったけど、あんたと歳の近い子は居なかったわ」
言葉を失いました。
言われてみればあかねちゃんの家に行った事はないですし、お母さんの顔も思い出せません。
何より、私の知るあかねちゃんは、いつも同じ服を着ていたような気がします。
その時にふと、思い出したことがありました。
最後にあかねちゃんと会ったのは、引越しが決まり、もうすぐお別れだと伝えた時。
そのときあかねちゃんは、私の手を爪が食い込むくらい強く握って、泣きそうな顔で言ったんです。
「あかねといっしょにすもうよ。あかねといっしょにいこう。おねがい、おいていかないで」
その時に私は困ってしまって「いっしょにいけないよ」とか「だめだよ」とか答えたような気がします。
その日を境に、家にも幼稚園にも、彼女は来なくなりました。それきり会うことも無く、私は引越しの日を迎えたんです。
家の片付けを続けていると、幼稚園時代の荷物がまとまったダンボールが出てきましたが、あかねちゃんの痕跡はどこにもありませんでした。
もしかすると、あかねちゃんは私が作り出した空想上の友達だったのかも。ここまで痕跡が残っていないと、そんな気がしてきます。
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。