この先に

私の地元で有名な怪談話はトンネルに纏わる話。

20年以上前に新しく大きな道路ができた為、あまり利用されなくなったトンネルがある。
峠道の頂上付近にあり、薄暗いトンネル。
新しい道路ができる前は隣町に行くためにそのトンネルを多くの人々が利用していた。
私が免許を取得した頃にはすでに新しい道路ができていたのでわざわざ旧道を通り、トンネルを利用することはまずなかった。

私が20歳くらいの時。
友人2人と私でドライブに出かけていた。
友人が運転する車でたわいもない話をしながら時間を潰していると、
「旧道の方、通ってみる？」
と1人の友人が言った。
「暇だし、久々に行ってみるか！」
そう言いながら旧道に入ると車は1台も走っておらず、あっという間に例のトンネル前までたどり着いた。
全員、地元なのでトンネルの噂は知っている。
他の2人はどうか知らないが、私は何十年も前からある話なのでどこか信憑性もなく、怖い！という感情は薄れていた。
トンネル近くまで来たあたりで、
「そういえば、このトンネルの話って本当なのかな？誰かが後ろから走ってくるってやつ。」
友人の1人が言った。

このトンネルでの噂は、トンネル内を車で走っていると後ろから何者かが走って追いかけてくる。というよくある噂話。

「どうだろう？何十年も前の話だろ？」
「さすがにもうないんじゃない？」
私を含め、全員否定的なことを口にしながら、トンネル内に入っていった。
数百メートルほどの一本のトンネル。

トンネル内のライトは切れていたり、今にも消えそうな微かな灯りで照らされている。
夜というシチュエーション、トンネル内の雰囲気、これらで私は少しばかりビビっていた。
「なんか、雰囲気あるなー」
「だな。気味悪いな。」
などと話をしながらトンネル内を進んでいた。
半分程来たあたりで、
「特に何もないよな？」と運転していた友人が聞いてきたので、「何もないな。隣町のお店に行って帰ろうぜ。」と話をしていると、トンネルの出口付近で何か人影のようなものが見えた。
「おい、あれ。」私は出口付近を指差し、友人達に教えた。
暗くてよく確認できないが、赤い服を着た女性のような人影がうっすらと見えている。
「え？なんだあれ？」
「誰かいるのか？」
時刻は24時前。こんな時間に山頂付近のトンネルに人がいるはずない。
一瞬で、噂の幽霊だと全員が思った。
しかし、噂では走って追いかけてくるということだったはず。内容が一致していないことに違和感を覚えた。
とにかく、このトンネルから抜け出さないことにはどうしようもないので出口付近で目線を合わせないように見ないで通り過ぎようと決めた。
しかし、何かおかしい。
まるで、その場で停まっているかのように全然出口に辿り着かない。
ずっと同じトンネル内風景と出口付近にいる人影を見ている。
「おい！踏んでるのか？」
「全然、進んでないじゃん！」
強めの口調で運転している友人に言うと、
「踏んでるよ！踏んでるに決まってるだろ！」

車内はパニック状態。
トンネルに入って3分…5分…通常ならとっくにトンネルを抜けているはず。
すると、
「なんか、近づいてね？」
「何がだよ？」と聞き返すと、
「人影。」
私は恐る恐る視線を人影の方に向けると、確かにこちら側に近づいている。
長い髪を前におろし、両腕には力が入ってる感じもなく地面につきそうなくらい腕が垂れている。少し左右に体を揺らしながら近づいてきていた。
ますますパニックになる車内。
「バックだ！バックしてトンネル出よう！」
と叫び、バックさせてみることに。
すると、人影は徐々に遠のいていき入口付近まで来れた。全員安堵した感じが車内を包んでいた。これでトンネルから抜け出せる！そう思った瞬間、バックして近づいた入口に先程まで前方にいた女性の霊が立っていた。
私と運転していない友人は安心しきって気づいていなかった。
突然、急ブレーキをし、アクセルを踏んで前に進み始めたので私達2人は、「どうした？なんで進んだ？」と問いただすと、
「見えなかったのか！後ろで立ってたの！」
バックミラーに映り込んだ霊を見たのだった。
走り出した車はトンネル内をすごいスピードで走り、あっという間に出口付近まで進んだ。
出口付近には誰もいない。
「よかったー」
「早く峠、下りようぜ。」
そう言いながらトンネルを抜けた。
一気に肩の荷が降りたように息を吐いて、トンネルを抜けてすぐのところに目線をやると、女性が立っていた。私はあまりのことに驚き、言葉を出せなかった。そして、聞こえてくるはずのない声を聞いた。