「本日もご来店いただきまして
誠にありがとうございます。
ご来店中のお客様に、迷子のお知らせを致します。」
百貨店に勤務していた妻の体験談。
「すみません、ちょっと3番行ってきますね」
3番とは業界(?)の隠語でトイレのこと。妻がトイレから戻る途中、親とはぐれた3~4歳の女の子が、エレベーター前のベンチに腰を掛け泣いていた。少し様子を見ていたが、親が戻ってくる様子もない。
「お母さんとはぐれちゃった?」
問いかけ空しく女の子は泣くだけだった。あたりを見回しても子供を探している様子の人はいない。仕方なくサービスカウンターへ一時預けることにした。
女の子を連れて行くと、係がそれはもう手慣れた感じで女の子をあやしながら椅子に座らせる。もう一人の係が妻に簡単な状況を聞いてきたので説明していたが、その間も女の子は泣き止まなかったそうだ。
「よくあるのよ。泣いちゃって名前聞けないこと」
少し困った顔をしながら係の人は館内放送を始めた。
(ピンポーンパンポーン)
「本日もご来店いただきまして
誠にありがとうございます。
ご来店中のお客様に、迷子のお知らせを致します。
茶色のワンピースと黒い靴をお召しになった3才ぐらいの女の子が、サービスカウンターでお連れ様をお待ちです。
お心当たりのお客様は、2階サービスカウンターまでお越し下さいませ。
繰り返します・・・」
アナウンスが終わる頃、ようやく女の子が泣き止んで来た。
改めて名前を聞くと“ユミ”と答えた。
「ユミちゃん、もうすぐお母さんが来るからね。」
係はユミちゃんに飴を渡して宥めていた。妻も一安心して自分の売り場に戻ろうとしたところ、女性がサービスカウンターを尋ねてきた。
「先程の放送を聞いてきました。娘が大変ご迷惑をおかけしました。」
細身で40代後半くらいの女性が係に頭を下げていた。子供の年齢の割には、お母さん随分歳いっているなぁと思ったそうだ。
「ユミちゃん!ダメでしょどこかに行っちゃ。お母さん心配したんだからね!」
当のユミちゃんはきょとんとしていた。
女性が係に頭を下げて、ユミちゃんの手を引いてエレベーターに向かっていく。一部始終を見ていた妻は歩きながら、親子が歩いていく様を見ていた。
良かった良かった、ちょっといいことした気分に妻は浸ったそうだ(笑)
ふと背後のサービスカウンターが騒がしい。
何かあったかと振り返ると、先程の係に若い女性が何か声を荒げている。気になった妻はその場に立ち止まった。
不気味ですね
正しい母親は現れたのでしょうか
まさかの大賞受賞に感激です。たくさんの怖い、ありがとうございました。
母親は誰なのだろう!
大賞すごい
面白かった!
この方の作品は、ハズレがないというか、怖さのツボを抑えておられますね。
創作なのか実話なのか気にならないほど、クオリティが高くて読みやすい。
怖ぇ
実話でなければ、こんなに臨場感でませんよね。
そのあと、お父さんと名乗る男性も何人か来たそうな。
背筋がゾクッとしました
創作だと思うけど怖
だ、だれか、、も少し解説なんぞを、、、