夏休みの朝は、ちょっとだけ特別な空気があった。
まだ涼しくて、空が白んでいて、眠いけど、なんとなくワクワクする。
僕の町では、毎年恒例のラジオ体操が近くの公園で開かれる。
朝六時半に集まって、体操カードにハンコをもらう。
ただそれだけの行事なのに、友達に会えるし、ジュースがもらえる日もある。
だから、小学生たちはそこそこ真面目に通う。
でも、今年のラジオ体操は、ちょっとだけ違和感があった。
最初に気づいたのは、3日目。
白いワンピースを着た、麦わら帽子の子がいた。
髪は肩くらいで、顔は細くて色が白い。
でも、誰もその子の名前を知らなかった。
「○○小の子?」「え、あの子うちの学区じゃなくない?」
そんなヒソヒソ話もあったけど、
誰かが「転校生じゃない?」と言うと、みんな納得したフリをした。
なんとなく、「あの子は聞いちゃいけない」感じがあったのかもしれない。
その子は、毎朝必ずいた。
でも、声を聞いたことがなかった。
体操も、変だった。みんなより1テンポ遅れて、
まるで音楽の存在を知らないみたいな動き方だった。
係のおじさんが、体操カードを確認していた日があった。
名前の確認をしていたらしい。
そのとき、白い子が並んでいなかった。
「あれ? あの白い服の子、カードないぞ」
おじさんがつぶやいた声を、僕はたまたま聞いてしまった。
「え、その子……どこにいます?」
「おまえが連れてきたんじゃないのか?」
なぜか、そう返された。
次の日からだった。
白い子が、僕の隣に立つようになった。
話しかけても返事はない。
でも、じっと僕の方を見ている気がする。
体操が始まると、あいかわらずワンテンポ遅れて、
腕をゆっくり、ゆっくり、上げ下げしていた。
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