先日ショッピングモールに来ていたのだが、そこで急な腹痛に襲われて、腹を抑えながらその近くのトイレに駆け込んだ。そこは人で埋め尽くされており、当然個室にも行列ができていた。しかしその他に行くトイレもないし、下手に動いたらさらなる人生の危機に陥ってしまうと考え、その行列に並ぶことにした。
そのトイレは個室の数が多かったこともあり、考えていたよりは待つことなく個室に入れた。ただ私の後ろにも5~6人の列ができており、あまり長居は出来なさそうだった。
10分弱でさっさとトイレを済まし、いざ出ようとズボンを上げた時、ドアがコン、コンとノックされた。出来るだけ早く切り上げたつもりだが、まあそういうものだろうということで、この時は不審に思わず「もう出ます!」とアンサーを返した。
ズボンを穿き、トイレを流し、鍵に手をかけた時、いきなりドアがドンドンドンドンドン!とノックされ出した。ノックと言うよりは殴っている、と言った方が正確かもしれない。急な出来事に思わず1歩引いてしまった。だが冷静になると「ただの感じの悪い人」だと思い、詰められた時のために遅くなった言い訳を考えながら再度鍵に手をかけた。
またドンドンドン!とノックされた。しかもそれはずっと絶え間なく続き、さらに隣の個室からもノックされだした。ドンドンドンとトイレ中に響いているはずなのに、何故か外にいる人達はザワザワとさえせず、小を済ませては手を洗って出てを繰り返していた。
1分ぐらい個室の中で留まっていると、仲の良さそうな大学生2人の声が聞こえた。この人たちも例に漏れず私に気づいてはいなかったが、まともな人の存在に安堵して「すいません、誰か助けてください!」と叫んだ。
その瞬間ノックはスっと止み、トイレは静かになった。またノックされないかなとか、トイレにいる人達に変な目で見られないかなとか色々な思考を巡らせたが、ついにもう一度鍵を開ける決意をした。
鍵に手をかけた時、ノックはされなかった。はぁ…という息とともに全身の力が抜けていった。人目なんて気にせず一刻も早くこの場所から出たかったので、その勢いのままドアをバーンと開けた。
個室の外には人ひとりいなかった。行列はおろか、他にトイレをしている人さえいなかった。賑やかなショッピングモールの中、このトイレだけ異様なほど静かな空間だった。
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