子供を泣き止ませろ
投稿者:とくのしん (65)
「おい!いい加減に何とかしろ!」
子供を早く泣き止ませなきゃという焦燥感に加え、老人の怒鳴り声に対する苛立ちから里美は声を荒げた。
「子供が泣いて迷惑なのはわかりますけど!そんなに怒鳴らなくてもいいじゃないですか!」
子供が泣いてうるさいのはわかる。老人の言い分がわからないわけじゃない。周りの乗客の視線が集まっているのがわかったが、老人の理不尽さに我慢ならず声を荒げた。
「子供が泣くのは仕方ないじゃないですか!こっちだって・・・こっちだって・・・」
電車やバスの中で泣く子供に対し高齢者が激昂するという報道は何度か目にしたことがある。自分が当事者になって初めてわかったが、高齢者の理不尽さに悔しいだけじゃない。周囲の人間がこれほどまでに無関心を装い、そして関わり合いを持たぬようにしている姿勢に里美は心底落胆した。こんなにも社会が冷たいとは・・・。
「もういい!貸せ!」
一瞬とはいえ老人とは思えぬ力に、里美は我が子を奪われてしまう。
「陽人!」
陽人を奪い返そうと老人ともみ合いになる。老人は身を屈めたり、捩ったりしながら里美に陽人を返そうとしない。振り回される老人の腕の中で陽人はさらに泣き叫んでいた。
「うるさい!うるさい!うるさーい!!!」
もみ合いのなかで老人は陽人を抱えたまま左右に大きく身を揺さぶったあと、天高く持ち上げた。
「やめて!!」
今にも床に叩きつけそうな老人の行いに、里美は我が子を取り返そうと必死に老人にしがみ付いた。その刹那・・・
“子供を返して・・・”
ふと女性の声が聞こえた。
(え・・・誰・・・)
女性の声が聞こえると同時に、里美の周り全てのものがゆっくりとした動きへと変わる。まるで映画のワンシーンをスローモーションで見るかのように。
“その子を返してください”
次の瞬間、なぜか里美はバスの外からその光景を眺めていた。
(なに・・・これ・・・)
老人と女性が先程の自分と同じようにもみ合っている。その光景は相変わらずスローモーションで、老人が赤子を高く持ち上げている。必死に取り返そうと母親らしき女性が老人にしがみつく。カーブに差し掛かったのだろう、バスが大きく揺れた。
その拍子に老人はよろけ、女性と共に運転席へと大きく体勢を崩した。運転席目がけてもみあったまま倒れ込む。運転手は押されるがままにハンドルを右に大きく切った。バスはガードレールに突っ込み、車体はさらに大きく揺れた。揺れる車内で老人は、頭の上に抱えた赤子をあろうことか投げ捨てた。激しく床に叩きつけられた赤子に母親が駆け寄る。我が子を抱きかかえようとした瞬間・・・
バスは激しく横転した。
「きゃあああっ!」
この母親は、亡くなった母子に同情してはいけなかった??((( ;゚Д゚)))
変に同情すると頼られるって言いますからね。
情けは人の為ならず……か?
全ては老害のクソジジイのせいだ!
亡くなった女性は自分の赤ちゃんと一緒じゃないのか
理不尽すぎる