後ろ向きの人間
あなたは後ろ向きに歩く人間を見たことがあるだろうか。
ふざけているわけでも、何かの罰ゲームでもない。
ただ、進行方向とは逆を向いたまま、歩いている人間だ。
———
少しだけ、私の話をさせてほしい。
32歳で独身、いわゆるサラリーマンだが、胸を張って言えるような仕事ではない。
【ブラック企業】そんな言葉が作られる前から終電後も働くことが当たり前になり、電車通勤はとうに諦めていた。
———
私がそれを最初に見たのは、
そんな通勤途中、車を運転している時だった。
片側一車線の道路。
歩道の端を、人影が進んでいた。
後ろ向きだった。
歩き方が異様だった。
まるで壊れかけの安っぽいロボットが、
油切れを起こした関節を無理やり動かすように。
一定の間隔で、
不自然に膝だけが折れ、
ぎこちなく前進している。
服装は、
よれよれのスーツ。
サイズの合っていない背広が、
夜風に揺れていた。
気味が悪くて、
私は目を逸らした。
⸻
それから数日の間に、
私はその「後ろ向きの人間」を何度も見かけた。
この話は怖かったですか?
怖いに投票する 1票


























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。