小さい頃から夢だった、芸能事務所の所属が決まった。
「――あなたの場合、アイドルとしてのデビューを考えてるんだけど、今、恋人はいるかしら?」
「いません!」
マネージャーさんに尋ねられ、思わず即答していた。
『どういう事?』
スマホで別れのメッセージをユウに送ったが、返って来たのは戸惑いの返事だった。
『アイドルデビューするから、恋人がいるとマズいの』
『そんなの正直に言わなければ良いでしょ?』
『どこでスクープされるか分からないでしょ』
『そもそも恋人とか気にするのアイドルヲタクぐらいでしょ』
そこが客層なんだってば。
ああ、面倒臭い。
夢に手が届きそうな時に。
夢の重さが分からないから、簡単な事のように言う。
『前からそういうとこ嫌いなの』
次のメッセージまで、間があった。
『恋人を犠牲にして夢が叶うとは思うなよ』
――ユウがストーカー化するかと思ったけど、何もして来なかった。
けれどそれがかえって不安を煽った。引っ越しても、不安は収まらなかった。
気が休まる間もないまま半年が過ぎた。
「デビューライブ、決まったわ」
その日のレッスンを終えた私に、マネージャーが切り出した。
「小さいハコですが、まずは満席を目指しましょ」
会場は、私がファンのアイドルも出演した事があるライブハウスだった。
『夢が叶うと思うなよ』
ユウの捨て台詞が浮かんだ。
ユウが狙うなら、デビューライブの時。
「マネージャー!」
「……ああ、やっぱりそういう人、いたのね」
マネージャーは微笑む。
「分かったわ。警備員を増員しておきましょ」
「良いんですか?」
「社長もあなたに期待してるからね。多少の無理は聞いてくれる筈よ」
「ありがとうございます!」
警備員がユウだったってこと?
やっつけちゃいなよ
と、思うじゃん?と言い方がきもくてヒトコワかと思った