幸せの壁紙
投稿者:件の首 (54)
『このスマホ用の壁紙、メッチャパワー貰えて幸せになれるよ!』
マキはスピリチュアルや占いにハマっていて、時折こんな風に色々なもの添付して勧めてくる。
いつも半信半疑だけど、意外と当たったりするから馬鹿に出来ない。才能が偏ったタイプなのだろう。
URLをタップすると絵が表示される。思わず、スマホを取り落としそうになった。
目鼻のない異様に指の多い人物がクラリネットのような先が広がった笛を吹いている、異様な絵だった。
「それでこの壁紙か?」
私の部屋で、アツシが私のスマホを見ながら苦笑いを浮かべる。
「マキらしいっちゃそうだな」
「わざわざ教えてくれたしね」
私はアツシに寄りかかる。
「随分信じてるんだな」
「そりゃね」
そもそもアツシと付き合い始めたのが、マキのお陰だ。
恋愛成就のパワーがこもっていると言われたペンが壊れた時、アツシが自分のを貸してくれて、関係が進展したのだ。
数日間、特に変わった事はなかった。
好きだった人とつきあえているし、授業で戸惑う事もないし、パワーが満ちている状態だ。
スマホの壁紙を見る。
長く見ていると気が滅入ってきそうだ。
一体誰の、なんていう絵だろう。
マキは美術の成績も駄目だった筈だし……あ、画像検索すれば良いんだ。
最初にヒットしたページのタイトルを見て、私は固まった。
『3回見ると死ぬ絵』
『もしもし』
「あ、マキ? 貰った絵、死ぬ絵ってネットで言ってるよ?」
『そうなんだよね。それだけで呪殺は無理みたい。不便よね』
「呪殺? え?」
『そりゃ私の事ずっと馬鹿にしてる相手、殺したいじゃない?』
「馬鹿になんてしてな――」
『作者のズジスワフ・ベクシンスキは刺し殺されて、息子は自殺した。同じ感じに行くかと思ったけど、当てにすると裏切るんだよねぇ、スピリチュアルは』
その時、聞き慣れないベルが鳴った。
火災報知器だ。
『何事も、自ら助くる者を助く、って事なんだろうね』
窓の外が明るくなる。
いつの間にか、家の周りに炎が上がっていた。
「あんた、放火!?」
『占いとかスピリチュアルもやっぱり、自分の努力が必要なんだよね』
逃げなきゃ。
電話を切る。
画面にまた、壁紙が表示された。
パワーつけろよ