防災無線
投稿者:とくのしん (65)
俺の洒落怖な体験談を投下。
ある週末、会社で仲の良い先輩に誘われて夜釣りに行くことになった。場所は岐阜県の山奥の貯水池。池といっても〇〇湖と名がつくのでそれなりに大きい。先輩曰く、そこは結構でかいのが釣れるっていう隠れスポットだそうな。
当日は先輩の運転で午前2時頃に出発。俺の家から目的地までは車で1時間程の場所であるが、そこはかなりの山奥で辺りは真っ暗&物音一つしないような静寂に包まれた不気味な雰囲気すら漂う。うっすらと霧も出ていたし、夜釣りは数回経験あるとはいえ、内心ちょっとビビっていた。そんな俺の様子を察してか
「幽霊なんていないから安心しろ」
そういう先輩は思いっきり体育会系に振り切った人間で、学生時代アメフト部だった脳筋なあんたは怖いもの知らずだろうけど、こっちはオカルト研究部出身で霊を信じている側なんだわい!と言い返したら笑っていた。
駐車場には一台も車が無く貸切状態。釣り道具を一式下ろして、先輩についていく。街灯がポツンポツンと数えるほどしかない場所なので、懐中電灯の明かりを頼りに湖畔を進んだ。先輩の懐中電灯はかなり明るい。聞けばamazonで1万もした高輝度のものらしい。夜道を歩くには3000ルーメン(?)くらい必須だと、自慢げに語られた。まぁそのお高い懐中電灯のおかげでかなり足元は明るかったのは事実なんだけどね。
先輩についていくこと10分くらいの地点に、ガードレールの切れ目から岸に下りる場所があり、そこを進むと釣りに最適な場所があった。
「空いてる空いてる。ここで始めようや」
先輩はランタンを点けると、手際よく準備を始める。俺もマイペースに準備を進めた。
それぞれ準備が終わり夜釣りを始める。天気は曇り、月明りはなく真っ暗な湖を照らすのはランタンの明かりのみ。時折、魚が撥ねるのかポチャンと湖から音が聞こえた。
始めて1時間くらい経った頃。途中コンビニで買ってきたコーヒーを飲み終えて、小休憩兼ねて用を足してこようかなと思い立ったときだった。
《・・・ガガ・・・ガガガ・・ガ・・・・》
どこからともなくマイクのノイズ音が聞こえ始める。程なくして“ピンポーンパーンポーン”とアナウンス音が〇〇湖一帯に鳴り響いた。
俺も先輩も一瞬ビビって「何?何?」とお互いたじろぐ。
《・・・こちらは防災・・・〇〇です》
戸惑ったものの、流れてくる男性の低い声が防災無線を知らせるものとわかり、二人は少し安堵し顔を見合わせて笑った。
《行方不明者について・・・お知らせいたします》
こんな時間に行方不明者のお知らせか。どうせこのあたりに住んでいる老人が徘徊してどこかへ消えたのだろうと、その時点ではそう高を括っていた。しかし、その予想がてんで的外れだったことをすぐに思い知ることになる。
《午前四時頃・・・男性二人が・・・行方不明に・・・なりました。特徴は・・・身長180cm前後・・・黒髪の短髪で・・・年齢は二十代くらい・・・服装は・・・紺色の上着を着ており・・・黒の靴を・・・履いております・・・もう一人の特徴は・・・・》
防災無線から流れる行方不明者の情報は、俺と先輩の二人と寸分なく一致していた。
二人の背筋を冷たいものが伝っていく。言い知れぬ恐怖が全身を隈なく包んでいった。
身動き一つできずそれに聞き入っている俺と先輩の目と目が合った。
《繰り返し・・・お伝えします・・・。本日午前四時頃・・・男性二人が・・・行方不明に・・・》
繰り返される内容に、先輩が口を開いた。
「・・・こんな質の悪い悪戯、誰かがどこかで俺たちを見ているんだろ?」
懐中電灯で辺りを照らす・・・誰もいない。
対岸を照らす・・・人影は見えない。
これは怖い。設定がいい。
文章がうまい。
突然のセーラームーンやめろ
素晴らしいです。
みなさんの投票で大賞受賞できました。
今回で9本目の大賞受賞作品なので、節目の10本目を目指して今月も投稿します。
宜しくお願い致します。