高収入
投稿者:件の首 (54)
「ミキちゃん、一緒に帰らない?」
放課後、帰り支度をしていると、ヒナコが遠慮がちに声をかけて来た。
クラスでも目立たないヒナコは、私に妙に懐いている。
私にとっては友達の1人だが、彼女にとっては唯一の友達なのかも知れない。
とはいえ、今日は他の友達は、部活や委員会でいなくて、私も1人だ。多分、そうなる曜日をヒナコは把握して声をかけている。
「みんな忙しいみたいだし、良いよ」
「じゃ、行こ行こ」
帰り道、通学路沿いにあるコンビニに私たちは立ち寄る。
私はアイスの冷凍庫から、食べ慣れた棒アイスを取る。
「払っちゃうから入れて」
ヒナコが店内用のカゴを差し出す。
「なんかいつも悪いね」
「いいよ、パパ活してるし、お金はあるんだ」
さらりと言う。
最初に言われた時にはかなり驚いた。
だが人間慣れるものだ。
奢られる事も、ヒナコがパパ活してるという冗談も、違和感がなくなっていた。
さっきの遠慮の言葉も、ほとんど形だけだ。
会計を済ませるヒナコを眺める。
と、ヒナコが支払いにクレジットカードを使っているのが見えた。
高校生で?
「――それ、家族のクレカ?」
コンビニから出て、私は尋ねる。
「ううん、パパが何買っても良いよって」
カードの名義は、医療法人? の名前になっていた。
「パパ活って……マジだったの?」
完全に嘘とは思っていなかったが、こうやって証拠を見せられると不思議な気分になる。
「ミキちゃんに嘘なんか言わないよぉ」
ヒナコは笑った。
パパ活そのものに興味があった訳じゃない。
ただ、お金は欲しかった。
その後、ヒナコから色々パパ活の事を聞き出した。
結論から言えば、ネットでたまに耳にするような都合の良いおいしい話はない。
高収入にはそれだけのリスクがある。
怖い思いをする事もあったが、運良くとても良い「パパ」を見つけられ、その後はその「パパ」だけで足りているそうだ。
その最後の「パパ」は、「サポート」を求められる事もなく紳士的で、かなりの手当をくれる、つまりはクレジットカードの君だ。
ヒナコは少し考えてから言った。
「パパ、色んな若い子の考えとか色々知りたいって言ってたよ。まだ1人、2人お手当出せるみたいだよ」
どれだけ金があるんだろう。でも、大人の金銭感覚は違うのかも知れない。
「良かったら、ミキちゃんも会わない?」
「……いい?」
この終わり方が怖い
お大事になすって下さい。