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心霊

すだれさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

潜り込む冷えたモノ
長編 2023/02/26 21:33 2,845view

布団を撫でる手は布団の端を探し当てるとク、と握り持ち上げようとする。冷気が隙間から入り、寒いと感じた友人が手を振り払うように寝返りを打った。手は引っ込み、今度は友人の顔に髪の毛先のようなものが撫ぜる感覚がした。

さすがに鬱陶しくなった友人はすっぽりと頭を布団の中に潜り込ませ、布団の端もしっかりと内側に丸めた。手と髪、その気配はそろそろと遠ざかっていった。

「結構生身の人間のような攻防を繰り広げたな」
「それから『ああ、潜っちまえばちょっかい出してこないんだな』って思って布団に潜るようになった。外から布団をサワサワ撫でられることはあっても眠気が勝って気にせず寝れるようになったし」
「どうやら君の胆は鋼でできているらしいが、まあ、支障がなければそれでもいいか」
「俺もそう思って油断してたんだよな」

ゆだん、と思わず反芻した。この話の流れで、このタイミングで出すにしては、含むものが物騒ではないか。

「そんな状態で何回か冬越して、職場の後輩が泊まりに来ることになったんだ」

何気なく遊ぶ目的で。一応後輩には冬特有のあの現象について断りというか、説明はしていた。後輩は尚も了承して宿泊が決まったのだ。いわく、そういった存在が関わる経験は何度かしたことがあるから平気だと。

「布団並べて、いつもみたいに横になった。ただ、この日は横に後輩がいるしなって思って顔出したまんま寝たんだよな」

布団に入る直前まで点けていた暖房も深夜に切れた。友人は隣の後輩の存在への安心感からか深く眠りについたが、3時をまわった頃だろうか、けたたましい後輩の声と強い揺さぶりで覚醒した。

「先輩!!って叫ばれながらめいっぱい頬っぺた叩かれてた。もう本当に、最初は何が何やらわかんなかった。後輩は俺が目を覚ましたのに気づくとベソベソ泣き出すし」

後輩から話を聞きたくて何とか宥めながら辺りを見渡した。後輩が点けたのか部屋の中は照明で明るかったし、暖房もシュンシュンと稼働し室温を上げていた。

泣き止んだ後輩から聞けたのは友人が眠った後の出来事だった。
他人の部屋と布団や枕ということで、気が中々休まらなかった後輩は眠る友人の横でぼんやりと辺りを見回していた。暗いところも目が慣れてくると、家具の輪郭なんかは認識できるようになってくる。
そこで後輩は見てしまったようだ。
隣で寝ている友人の布団を、
青白い手が這っているのを。

「後輩は『ああこれが先輩が言ってたヤツか』って、まだ冷静に見てたらしい。でも段々目が慣れてくるとさ、手の先の方もジワジワ見えるようになってきたんだって」
「手の、先…本体ということか?」

「まあそう。第一に『おぞましかった』って」

腕2本、足2本、胴体と首・頭は1つずつ。人間と共通するのはそれくらいのものだった。
蜘蛛のような異様に細長い手足、櫛も通らなさそうな程に痛んだ髪、その隙間から見える窪んだ眼孔。口、だろうか、顔面に走る切れ込みからは長い舌と白い息が漏れ、後輩の耳は「さむい、さむい」という掠れた音を拾った。

異形のものは友人の布団に手をかけると、めくって、自身の身体を中に滑り込ませようとしていた。人間の姿であれば添い寝のような体勢だが、迫っているのは人間とはかけ離れた姿のバケモノだ。

後輩は震えながらも友人に手を伸ばした。何とか起こそうとしたのだ。しかしようやっと触れた友人の指先は氷に触れたような冷たさをしていた。勢いよく身体を起こし友人の顔を見ると、血の気が通ってないのではと思うほど青白くなっていた。

あのバケモノが体温を奪ってる!とっさに思った友人は部屋の照明を点けに走り、暖房のスイッチも乱暴に入れた。友人に駆け寄り、叩き起こす頃にはバケモノの姿はどこにもなくなっていたそうだ。

「それ聞いてからは、冬の間は布団から顔出さなくなったなぁ」
「そんな体験を寝相の改善だけで済ますとはな…」
「アレが来るの季節限定っぽいし。それより後輩が『今すぐ引っ越しましょう!』ってしばらくすごかったわ」
「後輩なりに心配してるんだよ」
「でももうしばらくは引っ越さないかなぁ。ここ何かと利便性はあるし、」

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