潜り込む冷えたモノ
投稿者:すだれ (27)
眠る時、布団から顔を出さない友人の話。
「冬はわかるが夏は辛くないか?ソレ」
「夏は普通に寝てる。冬だけ」
「何だ、やはり寒くて顔を出せないのか」
「まあ、そうとも言えるか」
随分と含みのある言い回しだ、と思ったことがどうやら顔に滲んでいたらしい。
此方の顔を見た友人はフハ、と噴き出しつつも、此方が所望している体験談の語り出しを練った。
「寒くて暖を取りたがるのは人間だけじゃないみたいだぞ」
今住んでいる家に引っ越す前は、友人の寝相も特殊なものではなかったらしい。
しかしならばきっかけは何だと問われても、明確にはわからないそうだ。引っ越した当初は普通に寝ていたし、転職して人間関係がガラリと変わった時期も重なったので、結局原因はうやむやのまま今に至っている。
「布団に潜り込んで寝るようになったのは、引っ越した次の年の冬だったかな」
深夜だった。布団に入る前に点けていた暖房もタイマーで切れ、みるみるうちに下がる寝室の温度に友人の身体は思わず身震いした。露出した顔は外気に触れ、鼻先がひんやりと冷気を享受する。
友人は寒さのせいか、すんなりとは寝付けなかったが、せめて身体と脳は休ませねばと何も考えないようにしつつ目を閉じていた。
「ちょっと意識飛びかけてきた頃だったんだけど、布団を外側から触られた感覚がしたんだよね。こう、手でサワサワ撫でる感じ」
「当時同居人は?」
「いないね」
暗闇で何かを探るような手つきだった。友人は目を開けるべきか悩んだ。脳裏を過ったのは幽霊のような存在の可能性ではなく、刃物を持った侵入者の可能性だったので。
「でもただ目を開けるだけじゃ出遅れると思ったから、目ぇ開けるのと同時にバサッと布団ごと身体起こしたんだ。相手がひるめばその隙に逃げられると思って」
「豪胆というか、思いっきりがいいな」
「でもな、」
何ならめくれた布団で相手を拘束する勢いで友人は飛び起きたが、目の前には誰も、何もいなかった。
ただ暗闇で、頬を長い髪のようなものが撫でていく感覚があった。
「それからも何度か似たようなことが起きたんだよな。何かが布団をまさぐって、俺が飛び起きて追っ払うみたいな」
「身体が休まらなそうだな…」
「転職した直後はマジでまいったんだけど…」
「けど?」
「ちょっとしたら慣れちゃって」
「え」
ある時、このまま放っておいたらこの手はどこまで伸びてくるのか気になったらしい。友人は布団の中でしばらく手の動向を探った。さすがに目は開けられなかったらしいが。
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