奇々怪々 お知らせ

妖怪・風習・伝奇

ねこきちさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

陰禍女
長編 2026/08/03 10:18 51view

臨床心理士をやっていると様々な人間模様を目の当たりにすることとなる。
これは、都内のカウンセリングルームに在籍する知り合いのカウンセラーから聞いた話だ。

*********************************************************************************

母方の祖母は、親戚中でひどく嫌われていた。
祖母は極端な吝嗇家であり、他人に施すとか楽しみを共にするということを一切しない人間だった。
祖母は地方の土地や古い貸家をいくつも所有する資産家だったが、古びた平屋に一人で住み、衣服は何年も同じものを着回し、電気代や水道代すら切り詰める生活を送っていた。
何かに備えて貯蓄をすると言うよりも貯蓄そのものが生き甲斐といった風な祖母を、母をはじめ親戚一同敬遠していたが、同時に恐れていたようにも思う。

しかし、そんな祖母は私にだけは昔から優しかった。
孫の中で女が私だけというのが理由だったのだろうか。

盆や正月に親戚が祖母の家に集まるとき、祖母は私だけを奥の座敷に呼び寄せた。そして、折り畳まれた紙幣を握らせた。

「リョウちゃん、これは誰にも言っちゃいけないよ。お母さんにも秘密だ」
祖母は普段は見せないぎこちない笑みを浮かべて、そう言った。

祖母から貰う小遣いは、母に知られれば没収されるのが分かっていたため、自室のクローゼットの奥にある洋菓子の空き缶に隠して貯金した。祖母がくれる額は、最初は数千円だったものが、私が成長するにつれて五万円、十万円と増えていった。中学生の頃に計算してみたところ、その総額は五百万円ほどになっていたと記憶している。私はそれを引き出しの奥に置いたままにしていた。

中学三年の冬、祖母は脳梗塞で倒れ、市内の総合病院の個室に入院することになった。母や叔父たちは病室の廊下で、弁護士や遺言書についての相談を交わしていた。

ある日の午後、私も見舞いに赴いた。医師からの説明があるとのことで、一緒に来ていた母や叔父たちが一斉に席を外した。病室には、ベッドに横たわる祖母と私だけが残された。

規則的な医療機器の電子音だけが響く中、祖母が目を開けた。私は何か声を掛けようとしたが、祖母はそれを制するように弱々しく手を布団から出すと、枕元の下に差し入れ、そこから一枚の薄汚れた木の板を取り出した。そして、私の手のひらにその板を握らせた。

板は厚さが1センチ、5センチ四方ほどの大きさだった。何の木かは分からなかったが、手垢で黒ずんでおり、表面には三文字の漢字が書かれている。崩れた字体のため分かりにくいが、三文字目は「女」のようだった。

「それはな、ばあちゃんの神様だよ」
祖母はそう言った。
「リョウちゃんが生まれた時から、ばあちゃんが死んだあとはリョウちゃんに渡そうと思っていたんだ」

私は手の中の板を見つめた。

「いいな、神様を絶対に、手放してはいけないよ。それはリョウちゃんを幸せにしてくれる、ありがたい神様なんだよ。リョウちゃんが、この人になら神様をあげていいと思った時だけ、譲ってあげなさい。私もそうやって、私の婆から受け継いだんだよ」

祖母はそれだけ言うと目を閉じ、再び微かな寝息を立て始めた。数分後に母たちが病室に戻ってきたが、私は板のことは黙っていた。

数日後、祖母は昏睡状態から目覚めることなく亡くなった。葬儀の席で親戚たちが口にしていたのは祖母の思い出や哀悼の言葉ではなく、残された不動産や証券をどうするかということだけだった。
私は祖母から貰った板を小さなポーチに入れ、カバンや衣服のポケットに移しながら、肌身離さず持ち歩くようになった。

地元中学に続き、高校を卒業した私は、大学への入学を機に上京することになった。
上京の日の両親の態度は淡々としていた。一人娘が家を離れるというのに、寂しがる素振りを一切見せず、どこかほっとしたような様子で私を見送った。
今思えば、両親は優しくて理知的な大人で、私のことを一人の人間として扱ってくれるものの、娘を溺愛するということのない人たちだったように思う。特に祖母が亡くなってからはそれが著しいものとなっていた。
だが、当時はどこの家庭もそんなものなのかなと私は思っていた。

大学で知り合った友人の中に、A子がいた。
A子と私は共通して大学内では目立つ存在で、当初は意気投合して懇意にしていた。毎夜のように取り巻きや学外の男たちを連れて繁華街に繰り出し、無軌道に遊んで若さを謳歌していた。
しかし、大学二年生の春、ある男をめぐるトラブルが元で私とA子は不仲となった。その男は私にとっては一晩きりの遊びに過ぎなかった(私は中学までは全くモテなかったが、なぜか高校に入ってからは男が途切れなかった)のだが、A子の方はどうやらそいつが本命だったらしい。彼女は周りの女友達を巻き込んで、私に対して無視をしたり、男たちにあることないこと吹き込むなどの嫌がらせを始めた。

1/2
コメント(0)

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。