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心霊

すだれさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

吠える犬のいる浜
長編 2022/11/26 12:01 2,248view

霊的存在を感じることができる、いわゆる霊感は家系が由来している場合も多い。知り合いたちから体験談を募っているとそう思う事が多々ある。
この日、話を聞かせてもらった友人の家族も、父と年の離れた兄がそういった存在に敏感だったらしい。やはり家系が関係しているようで、父方には霊感が鋭い者が多いという。

「兄貴たちは子供の頃からそういう、霊絡みの体験をしてきてて、俺とかが見ていたのとは少し違う景色が見えていた…なんて事も多かったよ」
「らしいな」

そしてそういう話は、大人になった今日日に「もう時効だと思うから話すんだけど」という切り口で、酒を片手に肴だとでも言うように語られるのだ。

小学校の低学年の頃、父の弟…叔父に海に連れて行ってもらったことがあるらしい。
と言っても、釣りが趣味の叔父が、同じく釣りに興味を持った兄を連れて行こうとしていた所に友人がわがままを言って同行させてもらった形だった。
釣りが目的だから水着も無いし、そもそも遊泳できる季節でもなかった。針が危ないからと釣り道具も触らせてもらえず。最初は黙々と釣りをする2人の側にいたが、小さい子供には退屈な空間、ジッとしていられるはずもない。「だからついてきても退屈だって言ったのに」と苦言を漏らす2人に、近くの敷地内にある公園で遊んでると告げて2人の元を離れた。背後からは「海は危ないから絶対に近づくな」と念入りに釘を刺す声が聞こえた。

公園には球技ができそうなほどの広さの広場と、遊具が置いてあるスペースがあった。遊具は乗って重心を動かせばバネのように前後に揺れる馬モチーフの乗り物と、ブランコ、シーソー。一番大きいのは屋根付きのやぐらのような遊具に滑り台がついたもの。やぐらを上って、滑り台を滑り地上へ降りる、そんな遊び方を想定した遊具だった。
友人が叔父たちと海へ訪れたのは昼間だったが、海岸にも公園にも自分たち以外の人影は無かった。公園に行けば子供の1人くらいいるだろうと思っていればもぬけの殻。遊具も広場も使い放題だが、ボールのような道具も持たず1人ではできる遊びは限られている。

そのうちまた退屈だと思うようになり、いよいよどうしようかと公園をウロウロしていた。いっそ浜辺にでも行こうか。着替えも持ってきてないから泳げはしないが、砂浜で遊ぶくらいならいいだろう。いや、靴と靴下を脱げば浅瀬に足を浸すくらいはいいか。

「遊泳時期でもない海に小学校低学年の子供が保護者もつけないまま向かうのは危険だと、今ならすんなりわかるだろうにな」
「そんなに言うなって。当時は『今味わっている退屈をどうにか解消したい』って気持ちでいっぱいだったんだ」

反省してるよ、と友人は苦笑する。危機感が欠けた子供の頭は暇をつぶすのに真剣だったのだ。

友人がその内「少しくらいなら泳いでしまっても」と考え始めながら海岸へ向かおうとした時。

「目の前に犬がいた。犬種はレトリバー系だったと思う。ソイツが、海岸へ向かおうとするのを阻むように立ちはだかったんだ」

当時の友人は同年代の子供たちと比べて随分と小柄だったそうだ。目の前の犬はフィクション作品の中なら友人を背に乗せても悠々と走れそうな、それほどしっかりした体躯だった。
決して野犬などではなく、首輪をしていたので近所の者が飼っている犬だったのだろうが、対峙した当時の友人には気にならなかった。

何せ目の前の犬はギラギラとした獣特有のあの目で友人を睨み、いつでも飛びかかれるようにか脚で砂浜を踏みしめ、牙をむき出しに唸り声をあげていたので。

友人が踵を返し走り出すのと、犬が一声吠えて友人に向かって駆け出すのは同時だった。

「いきなりだったからさ、叔父さんたちのいる海じゃなくて公園の方に向かった。2人の所に辿り着く前に犬に追いつかれると思った。追いつかれて、あの大きな身体で飛び付かれたらひとたまりもない。噛まれたらそのまま食われるとさえ思ったよ」

やぐらのような遊具に足をかけ、滑り台の上の所まで上った。友人は当時なぜか「高い所は安全」だと思っていた。とにかく犬と距離を取りたくて必死だった。
上りきって、落下防止のために作られていた柵に身を隠すようにしゃがんだ。犬の気配は消えない。けたたましい吠え声が下から聞こえてくる。
どうしよう。叔父たちに知らせようにも連絡手段など持っていない。公園にいる事は告げているから、釣りが終われば迎えには来るだろうがいつ頃かはわからない。いつまでこんな状態で待っていればいいんだろう。不安と恐怖に押しつぶされそうになりながら考えを巡らせていると、下の方から大きな音が迫ってきた。
遊具の材木を尖った爪が引っ掻く音。荒い獣の息遣い。遊具の影から唸り声を上げた犬が顔を出し、友人と目が合った。

「あの時の絶望感は今でも覚えてるよ。子供が上れる遊具だし、犬が上ってきたって何の不思議もないんだけど。安全だと思い込んでいた場所に脅威が現れたことに本気で絶望したんだ」

犬は怯えて柵にへばりつく友人に向かって声を張り上げ吠え続けた。遊具の上は地上からそこそこの距離があり、当時の友人が柵を越えて飛び降りるなんて芸当は不可能だった。逃げ場もなく、いよいよ食べられると精神的に限界を迎えた幼い子供は泣き声をあげた。しゃがみ込んで耳を塞いで目を固く瞑った。動くたびにガツガツと材木を引っ掻く爪も、吠えるたびに見え隠れする尖った牙もひたすら恐ろしかった。そのうち何人かの気配が近づいてきて、次に目を開けた時には叔父から抱きかかえられて遊具を降りていた。

「ああ、もしかして君が犬嫌いなのはこの件が原因か」
「あんな体験して犬好きになる方がどうかしてるよ」
「そう口を尖らせるな。無理やり海までついて行ったのは幼い頃の君じゃないか」
「アイツらには二度とついて行かないと固く誓ったわ」

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コメント(1)
  • 優しい…

    2023/03/12/19:18

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