エレベーターの鏡
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
視界の端でその存在を感じながら、エレベーターはやっと4階を超えた。
「早く…、早く…!」
そう思う間にも、子供と目が合いそうだった。
チン!
5階に着いた合図の音だった。
ドアが開くや否や、逃げ出すように俺はエレベーターから飛び出した。
エレベーターの正面には長い廊下があり、501号室はその突き当りにある。
夢中で廊下を走り、その途中で一度止まって、恐る恐るエレベーターの方に振り向いた。
エレベーターのドアは閉まる途中で、ドアの窓からその中が覗いて見えたが、その中には誰の姿も無かった。
俺は何とか501号室までたどり着き、インターホンを押すと、すぐにDがドアを開けてくれた。
「おお、いらっしゃい。」
「は、早く中に入れてくれ!」
挨拶もそこそこに、俺は強引に中に入ってドアを閉めた。
「どうしたんだよ、そんなに慌てて。まあとりあえずそこ座れよ。」
俺は言われるまま、奥の部屋のテーブル横の座布団に座った。
「一体何があったんだよ。」
Dはグラスを用意しながらそう聞いてきた。
テーブルにグラスとビールが用意され二人で座ると、俺はエレベーターで体験した事を話した。
「エレベーターの鏡か…。なるほど…。」
Dはホラー映画好きとあって、オカルトや怪談にも詳しかった。
「夜の12時に合わせ鏡というのは確かに不気味だよな…。」
Dとそんな話をしているうちに気持ちも落ち着いてきたから、用意していたDVDを再生し始めた。
俺はかなり落ち着いてきていたものの、さっきの体験のせいか、映画を見ていても何となく上の空だった。
映画を2本ほど見終わると、窓の外はわずかに薄明るくなっていた。
それまでビールをかなり飲んでいたはずが、なぜか全く酔えなかった。
もう始発電車が走る時間になったので、今日はもう帰ることにした。
Dにそう言うと「そうか、分かった」とだけ言って、俺は早々に帰り支度を終わらせた。
俺がまだ不安がっている事にDは気にしてくれて、1階のエントランスまで付いて来てくれることになった。
部屋を出て廊下をまっすぐ進み、エレベーターへと二人で歩いていく。
エレベーターはちょうどこの5階に止まっていて、ドアの窓からその中が見えた。
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