視界の端でその存在を感じながら、エレベーターはやっと4階を超えた。
「早く…、早く…!」
そう思う間にも、子供と目が合いそうだった。
チン!
5階に着いた合図の音だった。
ドアが開くや否や、逃げ出すように俺はエレベーターから飛び出した。
エレベーターの正面には長い廊下があり、501号室はその突き当りにある。
夢中で廊下を走り、その途中で一度止まって、恐る恐るエレベーターの方に振り向いた。
エレベーターのドアは閉まる途中で、ドアの窓からその中が覗いて見えたが、その中には誰の姿も無かった。
俺は何とか501号室までたどり着き、インターホンを押すと、すぐにDがドアを開けてくれた。
「おお、いらっしゃい。」
「は、早く中に入れてくれ!」
挨拶もそこそこに、俺は強引に中に入ってドアを閉めた。
「どうしたんだよ、そんなに慌てて。まあとりあえずそこ座れよ。」
俺は言われるまま、奥の部屋のテーブル横の座布団に座った。
「一体何があったんだよ。」
Dはグラスを用意しながらそう聞いてきた。
テーブルにグラスとビールが用意され二人で座ると、俺はエレベーターで体験した事を話した。
「エレベーターの鏡か…。なるほど…。」
Dはホラー映画好きとあって、オカルトや怪談にも詳しかった。
「夜の12時に合わせ鏡というのは確かに不気味だよな…。」
Dとそんな話をしているうちに気持ちも落ち着いてきたから、用意していたDVDを再生し始めた。
俺はかなり落ち着いてきていたものの、さっきの体験のせいか、映画を見ていても何となく上の空だった。
映画を2本ほど見終わると、窓の外はわずかに薄明るくなっていた。
それまでビールをかなり飲んでいたはずが、なぜか全く酔えなかった。
もう始発電車が走る時間になったので、今日はもう帰ることにした。
Dにそう言うと「そうか、分かった」とだけ言って、俺は早々に帰り支度を終わらせた。
俺がまだ不安がっている事にDは気にしてくれて、1階のエントランスまで付いて来てくれることになった。
部屋を出て廊下をまっすぐ進み、エレベーターへと二人で歩いていく。
エレベーターはちょうどこの5階に止まっていて、ドアの窓からその中が見えた。
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