昔、団地の裏手で、ひと夏だけ“夜のかくれんぼ”が流行ったことがあった。
街灯の届かない草むらや、駐輪場の影に隠れるスリルが楽しかった。
でも、大人たちには怒られた。
「夜はだめ」「見つけても帰ってこられないことがある」って。
意味がよくわからなかった。
あの夜も、七人いたはずだった。
じゃんけんで負けたのはコウジで、
「百数えてなー」って言ってみんな走っていった。
わたしはゴミ集積場の裏に隠れた。
息を潜めていたら、足音が近づいて、ふっと立ち止まる気配がした。
でも、それはコウジじゃなかった。
誰かが、じっとこっちを見ていた。
白いTシャツ。顔は、見えなかった。
時間が過ぎて、みんなが集まりはじめたけど、
その“白いの”だけは、最後まで現れなかった。
誰が見つけられたとか、誰が鬼だったとか、そんなのも曖昧になって、
いつの間にか、かくれんぼは終わっていた。
十年後、団地は取り壊された。
掲示板に貼られた工事案内の地図を見たとき、気づいた。
あの頃、子どもたちの数が、最初から合ってなかった。
誰かが最初から“鬼”だったのか、
誰かがまだ、隠れてるのか――
ただ、あの夜以来、誰も「もう一回やろう」とは言わなかった。
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お題が新鮮とは思わないですが、文章の雰囲気が好きです。