客を乗せた時の話
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
お盆に親戚が集まった時に、昔タクシーの運転手をしていた叔父から聞いた話。
僕は最近怪談に興味があり、「タクシーと言えば怖い話」だろうと思い、何か怖い話や体験談が無いか叔父に聞いてみた。
「怖い話だって…? うーん、そういえば、あれは怖い話というか、不思議な話というか、そんな事が一度あったなあ…。」
そう言うと、叔父は話を始めた。
ちょうど景気が良かった頃の話だそうだ。
ある日の深夜、長距離の客を降ろした後、そのまま会社に帰るのも何だかもったいなくて、ある駅前のロータリーにあるタクシーの待機所で客を待つ間に仮眠をとっていた。
(コンコン)
誰かが窓をノックする音で目を覚ました。
ノックしていたのは、いわゆる典型的なスーツを着たサラリーマンという感じの30代くらいの男だった。
「○○方面まで行きたいんだけど、いい?」
「も、もちろんです。どうぞどうぞ。」
私(叔父)は後ろのドアを開けると男は座って
「それじゃ○○の方へ行ってください。」
「かしこまりました。」
私は返事をし、そこまでなら5000円くらいかなと考えながら車を走らせた。
男は少し酔った様子で、何か飲み会でもあったのだろう。かなり調子がいいようだ。
「実はね、運転手さん、最近子供が生まれましてね、俺もとうとう父親になったんですよ。」
「それはおめでとうございます。」
「ありがとう。そりゃ念願の男の子でしてね、もうこれ以上嬉しい事って無いくらいですよ。」
「男の子は…、いや女の子でもそうなんですが、赤ちゃんは元気なのが一番ですよね。」
「本当は今日飲み会なんて行かなくて真っすぐ帰りたかったんですけどね、なかなかそういうわけにも…。」
「私もサリーマンの時代があるもんで、よくわかりますよ。」
「でもこの時間はもう寝てるだろうな…。」
「それにしても、子供の寝顔を見るのって本当に幸せを感じますよ。」
「そうそう、どんな疲れも吹っ飛ぶって本当の事だったんですよね…。」
時々道案内をしてもらいながら子どもの話や世間話をしているうちに、男の家に到着した。
「財布財布っと…あれ?どこだ?」
男は酔っているせいか、財布をかばんやらポケットやら探していたがすぐには見つからなかった。
「ちょっと待ってて、家からお金を持ってくるから。」
なんとなく面白い。
オチが怖い