あれを見たのは、たしか高校生の頃。
当時の僕は怖い動画が好きで、テレビの心霊特集は欠かさず見ていたし、ちょうどネットにもそういう映像が増え始めた時期だったと思う。
Youtubeでも検索すると心霊系の動画が沢山出てきて、夜中にこっそりイヤホンをつけて見るのが趣味だった。
そのチャンネルを見つけたのは本当に偶然で、たまたまおすすめに上がってきた動画をみたのが始まり。登録者は50人くらいで、再生数も二桁がほとんど、コメントも全然付いてなかった。
動画の内容も毎回似たような感じで、ハンディカメラで撮影しながらどこかの心霊スポットを紹介するだけ。撮影者は姿を見せず、ただ話しながら、薄暗い廃墟の中を歩き回る。特に編集もなく、懐中電灯の灯りで撮影された画質も荒い。だけどそれがリアルな感じがして、生々しかった。
そのチャンネルで紹介していた心霊スポットは、ネットで検索しても情報が出ない無名の場所ばかり。 妙に細かい噂話や事件の情報を喋っていて、それが逆に「本物」っぽく感じて、僕はそのチャンネルの動画をよく見るようになった。
ある日のこと。
宿題をしながら、いつものように流し見していた動画の中で、撮影者が「〇〇県△△市の――」と話し始めた瞬間、思わず手を止めた。
僕の住んでいる市の名前だった。
ん?近所に撮影に来てたのか?でも家の近くに心霊スポットになりそうな場所なんて無かったはずだけど。
そう思って画面を見た時、思わず凍りついた。映っていた建物に、見覚えがある。
それは、僕達家族が暮らしているアパートだった。
二階建て、一棟に四世帯が入居できるファミリー向けアパート。
ただ、外壁は黒く焼け焦げ、窓ガラスは割れ、周囲には煤けたゴミが散乱している。知ってる外観なのに、あまりに状況が違う。異様な光景だった。
「夜中に一階の老夫婦の部屋から出火し、住人全員が死亡したという――」
動画の中でそう語る声が、機械的にそのアパートの事件を説明する。でも、一階に住んでるのは中年の夫婦と若い子連れの夫婦だし、もちろん火事なんて起こってない。
だから最初は、どこか別のよく似たアパートなんだろう、ネットに本当の住所を載せるわけにもいかないから、適当なものを言ってるのだろう。そう思った。
撮影者は一階の部屋から内部を見て回っていく。
見覚えのある部屋の作り、見覚えのある付属家具。嫌な予感がして、マウスを握った手に変な汗をかいていた。
撮影者は一階の二部屋を見て周り、ついに二階の、階段正面の部屋の扉に手を掛けた。
僕達家族の住む部屋と同じ場所。
動画の中で扉が開き、玄関の床に、焦げて割れた陶器の花瓶がーー。
それを見た瞬間、僕は反射的にYoutubeのページを閉じた。
それは、家の玄関にいつも飾ってある花瓶そっくりだった。母が昔、知人に貰ったと言っていたもので、いつも靴箱の上に飾ってあるものと、同じに見えた。
それ以降、そのチャンネルは見ていない。
Youtube自体しばらく開けなくなった。おすすめであのチャンネルの動画が出てくるのが、なによりも怖かった。
今、僕は就職して地元を離れている。けど、両親の住まいは未だにあのアパートだ。
あの映像はたまたま似たような建物で、似たような花瓶が落ちていただけだ、偶然が重なっただけだと、自分に言い聞かせている。
でも、もし――もしあの動画が「これから起きること」を映していたとしたら。
それとなく両親に引っ越しを勧めた事もあるが、親族の所有するアパートを格安で借りているのもあって、その意思は無さそうだ。
母から「下の階の旦那さん、最近痴呆がでてきたみたい」って近況報告を受けたのも記憶に新しい。
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