転勤で、とある郊外の独身寮に入った俺は、適当に買った古い軽でこの田舎町をドライブするくらいしか楽しみが無かった。
休みの日はショッピングモールを巡ったり、意味も無く峠道を走ったりと、暇を持て余していた。
いつしか、休日の前日の夜には、あてもないドライブをすることが習慣になった。
その日の仕事が終わった6時過ぎに車で出発し、買い物などをしながら暗くなった頃を見計らって、カーナビを使わずに道路の標識を頼りに走った事が無い道をただ走るのだ。
最初の頃はそれほど遠くまでは行かなかったが、次第にその距離は長くなり、最近は2時間以上運転することも多くなった。
夜も10時を過ぎると、開いている店はコンビニや一部の飲食店くらいしかない。
ある大通りを走りながら風景を何気なく見ていると「DVD」と書いてある明るく照らしてある看板が目に入った。
一見、レンタルビデオ屋か何かだとは思ったが、どうも様子が違う。
近くのコンビニに車を停めてスマホで調べてみると、どうやらこの店はアダルトDVDを専門に扱っているアダルトショップらしい。
そう言えば今までこの手の店には入った事が無かったから、Uターンしてその店に入ってみる事にした。
この郊外の店では珍しくない広い駐車場に車を停めて、平屋の店舗の入口へと向かった。
元々は量販店か何かの空き店舗に出来たお店といった雰囲気だ。
手動で手前に引くドアを開けて中に入ると、何やら独特のアロマというのか、独特の甘ったるい匂いに俺の全身は包まれた。
それは今まで嗅いだことが無い苦手な感じの匂いで、迷路のようになっている店内を軽く一周見て回ると少し気分が悪くなり早々に店を出る事にした。
もしかしたら他のお店は雰囲気が違うのかと思い、車に戻ってスマホでアダルトショップについて調べてみると、この近辺ではここ以外に1軒ヒットした。
店名は「○○堂」というらしい。
そこまでは1時間ほどで、かなり遠回りになるから自宅に帰る頃には日を跨いでしまうだろう。
帰りが遅くなったとしても特に問題はないから、その店に行ってみる事にした。
スマホのルート案内に従ってしばらく走っていると、次第に繁華街や住宅街から離れていった。
あと5分で到着する予定だと案内されているが、こんな山道のような細い道路沿いに店なんてあるのかと思いながらも徐々に店に近づいていた。
「間もなく目的地です」
スピードを落として辺りを見渡しても、そこはお店はおろか、民家さえ1軒も無さそうな場所だった。
音声に従い細い脇道に入り、駐車場なのか空き地なのかわからないが、車が2~3台止められそうな場所にとりあえず車を停めると、そこにはプレハブとさえ言えない、トタンの壁と屋根だけの、ほっ建て小屋のような建物があった。
見るからに、いかにも無人販売店といったたたずまいだ。
小屋の入り口には申し訳程に屋号であろう「○○堂 DVD」と書かれてあり、目的地はここで間違いないだろう。
灯すら無い入り口に恐る恐る入ってみると、幅1メートルほど、奥行きが10メートルも無い通路の左右の壁には自販機がいくつか並んでいた。
(なるほど、確かにここは無人販売店だ)
ゴミが少しばかり散乱している通路を進んで自販機を見てみると、アクリルのショーケースの中には照明が灯っていて、上下左右に並べられた商品の見本を見る事が出来た。
よく見ると、自販機によって商品の内容が違っていた。
通路右側の自販機はいわゆるアダルトグッズ、左側の自販機はコスプレの衣装らしき商品が売られているようだ。
笑える🤭
恐怖と笑いは表裏一体で、ホラー映画で笑う事もあります。
しかし、この本人にとってはとても恐ろしい体験で、とても笑い事ではありません。
作者より