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満員電車の後ろ向きおじさん
短編 2021/12/01 12:06 1,820view
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千葉県に住む俺は実家から都内の大学に通っていたため電車を乗り継いで通学している。
午前から講義を取っていた俺は、毎朝通勤ラッシュに遭遇して鮨詰めの電車の中へ飛び込んでいた。

今日も満員電車に憂鬱になりながらも臨戦態勢で乗車し、長時間耐え忍ぶ日課が始まった。

しばらくいつものように電車に揺られていた俺は、ある違和感を抱く。

何気なしに首だけ動かして周囲を見渡すと、ちょうど俺が居る車両とドアを挟んだ向こうの車両に、こっちを見ているおじさんと目が合った。

俺は瞬時に目を反らして俯いた。

何でかというと、おじさんの顔が満面の笑顔だったからだ。

短髪で眼鏡をかけた無精髭の、正直記憶にも残らないどこにでもいそうな特徴のない顔のおじさん。
そんな奴が笑顔で見つめてくるからある意味恐怖に近い感情がわいた。

それから何駅が過ぎて、途中波のように人が乗り降りを繰り返し、俺は再び隣の車両に目をやった。

「うわっ」

やっぱりおじさんはこっちを見ていた。

居心地の悪い視線を浴びながら俺は下車する駅まで耐える。

目的地に電車が停まるより少し早く、俺は人混みをかきわけるようにしてドアへ移動した、

ドアが開くと雪崩のように人がホームへ流れていき、俺もその一部となって流れに乗って出る。

その流れの中、例のおじさんがいた車両を見て、俺は絶句する。

おじさんは相変わらず俺の方を見ていたのだが、首が180度回っている状態だった。
中肉中背よりやや小太りな背中の上に顔がある状態。

俺はあんぐりと口を開けたまま立ち止まってたせいか、後続の人と何回かぶつかった。

おじさんは何かを伝えるように口を動かしているが、聞き取れるわけもなく、やがて人の波に隠れるようにして見えなくなり、電車はホームを発つ。

あのおじさんは人間だったのか、俺に何を伝えたかったのか分からないまま電車を見送り、俺はしばらくの間駅のホームで立ち尽くしていた。

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