留守番中の異音
投稿者:with (43)
あれは小学生の頃の体験だったかな。
俺の両親は共働きで、俺は所謂鍵っ子。
俺は十六時とか十七時前に授業が終わる事が多くて、誰も居ない家に帰宅する事が多かった。
誰も居ないのが当たり前で、口では「ただいまー」と言ってのけるものの、返しのない沈黙を淋しいと感じることもあったが、何年もそんな日常を繰り返せばそういうのが当たり前になっていた。
そんなある日、俺はいつものように学校から戻り家に入った。
俺の家庭では、俺の腹が減らないようにと常に両親がダイニングにコンビニで買ってきたパンをいくつか置いてくれていたし、冷蔵庫にも軽食を用意してくれている。
勿論、夜になれば両親のどちらかが帰ってきて、ちゃんと手料理を作ってくれるが、育ち盛りの子供のお腹は空くものだ。
この日も適当に美味しそうなパンを選んでジュースを注ぎリビングでアニメを見て、時には片手間に宿題をしながら両親の帰宅を待っていた。
因みに小学生の俺は、二階の自室には就寝時くらいしか立ち入る事はなかったそうだ。
今思えば、ただでさえ一人で淋しいのに部屋に籠ればもっと孤独を感じてしまうため、その事を恐れていたんだと思う。
まあ、中学に上がった頃には平気で自室で過ごすようになったが。
それでのんびり過ごしていると一本の電話がかかった。
プルルルル、とキャビネットの上の電話機が音を奏でたので俺は怪しむ事も無く受話器をとった。
「もしもし」
『あー、〇〇ちゃん?ごめん、少し残業で帰りが遅れるから冷蔵庫の中のヤツを温めて食べてくれる?ごめんね?』
「うん、わかった」
『お父さんの方が早かったら、お父さんにも伝えといてね』
電話相手は母親だった。
特に珍しくもない、残業で帰宅時間が遅れる報告。
両親は基本的に十八時過ぎに帰宅する事が多いが、今のように残業する場合は決まって家に電話をしてくる。
俺がちゃんと学校から帰宅しているか。
それを確認する名目もあるが、今思えば両親も両親で子供一人で留守番させている負い目もあったのだろう。
こうやって声を聞かせて安心させていたのかもしれないと、今では思う。
それに引き換え今のご時世は子供でもスマホを持っているからその辺は便利だ。
話は脱線したが、この日も母から残業の一報が入り少し落胆していると、続けざまに父親からも残業の連絡が入り、俺は「あー、今日も一人飯か」なんて自傷気味に自分を笑い、冷蔵庫の惣菜と親が予約炊きしていた炊飯器から温かいご飯をよそって一人飯を堪能した。
食器は食後にシンクに運び水につけておくのが我が家のルールで、俺は食器を運んだあとは大体決まって一人でお風呂を沸かして風呂に入っている。
その辺りは両親も風呂を沸かしてくれるのはありがたいと褒めてくれていたので、当時から風呂の湯沸かし担当は俺だった。
たまに風呂掃除も担当している。
だが、この日の風呂は少し勝手が違った。
俺が髪を洗っている最中に奇妙な物音がするのだ。
『トットット』と小さな足音とでも言うのか、人が歩くと言うよりは小走りする生活音に似た音が聞こえた。
最初は両親のどちらかが帰ってきたと思い急いで髪を洗い流して風呂場から「おかえりー」と叫んだのだが、どうにも返答がない。
始めの内は互いに聞こえなかったのかなと思い何度か「お母さん?お父さん?」と返事を期待して風呂場から声を張ったが、やっぱり誰の返事もなかった。
幼い時は、特別に怖いし、環境がかさなるとかなり、怖い!
その気持ちわかります。寂しかったんでしょうね。気持ちが現実となって現れたとか。
子供の時って色々な事に敏感だったような気がします。一人で夜の留守番は怖いですよ。