墓石の後ろから覗き込む者
投稿者:有野優樹 (6)
中学生の頃、やんちゃな友達に、お墓へ肝試しに連れて行かれたときのお話しです。
夏休みの夕方、友達の柴山君と近所の公園で行われていた盆踊りへ遊びに行きました。少ないお小遣いで何を買おうか暗算しながら、音楽や人の声、やぐらや屋台のあかりが近づいてくる道のりに感情が高まる。
しかし、その気持ちは一気に嫌なものに変わりました。
「お前らも来たんだ。一緒に遊ぼうぜ」
声をかけてきたのは、同じクラスで柔道部に所属している小林(とその仲間達)。なにかと理由をつけて絡んでくる厄介な同級生。へんに反論しようものなら、部活で鍛え上げた腕を振りかざしてくるので、本当は嫌だったのですが、さっさと遊んで適当なところで切り上げようと誘いにのりました。
「みんないるからこっち来いよ」
公園から少し外れた駐輪場、見覚えのある顔が数人でたむろしている。盆踊りの効果もあってか、いつも以上にテンションが高くめんどくさそうな雰囲気でした。
こいつらと遊ぶためにお祭りに来たんじゃないのに‥。
来たことを後悔しましたが、言われるがままに自転車の後ろに乗せられて、どこかへ連れて行かれる僕たち。盆踊りの楽しそうな雰囲気からどんどん離れ、柴山君も不安そうな顔をしていました。
連れて行かれたのは、大きな川のそばにあるお寺。周りは街灯の間隔が広い住宅街。頼れる光はガラケーのみ。言われなくても、肝試しに連れてこられたことはわかりました。
「お母さんから電話がかかってきたふりするから、そしたらすぐ帰ろ」
と小声で提案され、嘘だとバレないように電話のタイミングを見計らっていましたが、タイミングがつかめない。
大きな木の門をくぐると、数十メートル先まで続く石の道。両側にはたくさんのお墓。向こうのほうにはたくさんの木が生い茂っており、行ったら最後、一生戻ってこれない恐怖の森に感じられました。
「あっちまで行って戻って来い。途中で帰ってくんじゃねーぞ」
目の前しか照らすことのできないガラケーを持ち、ゆっくり一歩ずつ歩く。シャリ、シャリと石の道を歩く2人の足音。じんわりと背中につたわる汗。
途中で逃げ出そうと振り返るも、門のところであいつらが見張っており、ジェスチャーで行け行けと差図をしてきました。
向こうまで行かなきゃいけないのかなぁ‥と思いながら前を向くと、暗さで顔は認識できない数メートル先、左手の墓石の後ろから赤い服を着た人が上半身だけを出し、覗き込むようにしてこちらを見ています。暗い中に見える赤い服。目が慣れていなくても認識することができました。
足を止めて振り返る僕たち。
その人の方を指差すと、あいつらはガヤガヤするをやめて前のめりに見た後、各々大声をだして逃げていく。その声に驚き僕たちも急いで合流。
「誰だよ、あの人!」
と聞いてみても
「知らねーよ!」
の一点張り。
「お前らの友達か誰かじゃないの?」
最初はこいつらが仕込んだ人なんだと思いましたが、どうやら本当に違うらしい。僕らの気のせいなんかではなく、その場にいた人みんな見ていました。
するとそのとき、柴山君の携帯にお母さんから電話がかかってきて、それを理由に帰ることが出来ました。
結局、あの赤い服の人は誰かわかりませんでしたが、僕らを助けてくれるために出てきてくれた気がするんです。
本意で来たのでなければ、助けてくれる向こう側の人もいるかもしれない、そんなことを感じられた出来事でした。
良い人かも、しれませんね。