大輔さんは小学生の頃、水生昆虫を捕まえることに夢中になっていた。
網と空瓶を持ち、家の近くにある池に昆虫採集をしに出かけたある日のこと。
「オタマジャクシばっかで全然いないや」
覗き込んでいた池。目当ての虫が見つからなかったので諦めて帰ろうとしていたとき、水面に映る大輔さんの顔の上に知らない男の顔が浮かび上がったのだ。
こちらを、じっと見ている。
昆虫採集をしにきた子供を見にきたのだと思い振り返るとそこには、誰もいなかった。
「アレ?」
と感じたのも束の間。
足を滑らせてしまい背中から池に落ちてしまったのだ。底は深く、泥のせいで足がうまく動かせない。もがきながらも持っていた網を底にさし、片方の手だけでなんとか這い出ることに成功した。
びしょ濡れで家に帰ると祖母から
「早く風呂に入んな!風邪ひくから!」
と言わたのですぐに入った。浴槽の中でようやく一息つく。
冷静になりさっきのことを思い返していると、暖かい風呂の中でも寒気を感じてしまうことに気づいてしまった。
男性の顔は、自分の顔と反対向きだったのだ。
池に立っているか水の中からでなければ、反対向きになることはありえない。
あの男性はどこから自分のことを見ていたのだろうか。
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