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心霊

てんさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

先輩
長編 2025/04/08 17:03 1,464view

これは私が大学生になったばかりの時の話だ。

入学して落ち着いた頃、友人に誘われ、とある飲みサークルに参加することになった。

顔見知りも多く、特に当時大学内で人気のあった先輩方も参加することもあり、大規模な飲み会だったのが、私自身まだ成人していないこともあり、後ろめたさもあったためあまり乗り気はなく、付き合いで参加した。

駅近くの居酒屋で19時からスタートだったが、気合の入った友人に連れられ、早めに到着した。

「あ、A先輩もう来てる。席近めに座ろ!」

友人が当時熱を上げていた2年上のA先輩が見え、友人に続いて、挨拶しに向かった。
A先輩は爽やかな笑みを私たちに見せてくれたが、私は何となく彼を間近でみた瞬間に違和感を覚えた。違和感と表現しつつ、それが正しいのかはわからない。
A先輩の肩あたりが何故かぼやけているように見えていたのだ。その部分だけ空間が歪んでいるかのように。

目が霞んでいるのかと思い、そっと目を擦ってもう一度見ると、ぼやけていたのはやはり気のせいだったのか、彼の全身ははっきりと見えた。

19時からの飲み会は盛り上がり、私たちは早めに来た甲斐があったのようで、A先輩のグループの席で楽しんだ。
あまり乗り気ではなかったはずの私も、お酒は飲まなかったが、楽しい時間を過ごせていた。

途中、トイレに行きたくなり席を立った私は友人に一言伝え、店内お手洗いの案内板に従って向かった。
トイレを済ませたのち、宴会場へと戻ろうとしたのだが、少し離れた場所でA先輩の姿が見え、足を止めていた。

「……誰か酔いつぶれたのかな」

A先輩は誰か女性をおぶっているようだった。長い黒髪の女性は、A先輩の肩に手を回してしっかりとつかまっている。隣にはもう一人、ショートヘアの女性を連れて三人で移動しているようだった。
奥の別の部屋に入っていくのが見える。

あれだけ人気のある先輩だし、女友達も多いのか、それとも酔い潰れてしまったのは先輩の彼女だったりして。そうだったら友人に勝算はないなぁなどと考えつつ私は宴会場へと戻った。

しばらくした後、A先輩は私たちの席に戻った。

「A先輩どこ言ってたんですかぁ? もっといっぱいお話したいのに〜」

アルコールの入った友人はA先輩に声を掛けるとA先輩は「トイレ行ったら電話かかってきて」と答えた。
私は、先ほどのA先輩の姿を見ていたこともあり、あれ? っと思ったが、ややこしくなるのも面倒に感じ、問いかけることはせずに聞き流した。

その日は一次会が終了し、二次会に参加すると言いながら酔っ払った友人が心配だった為、先輩方に挨拶だけ済ますと彼女を強引に連れてアパートまで帰った。

そんな飲みサークルから一月ほど経った。
学部も違うこともあり、A先輩との関わりもなく日々学校やバイトや遊びで充実した毎日を送っていた私は、バイト帰りに自宅アパートへと向かって歩いていた。
駅から数分で着くアパートは、同じ大学の人が多く利用している学生向けのアパートだった。

駅前通りから奥に進んだ細道は、アパートに近いが夕方は人も少なく少し怖い。
防犯ブザーをおまじない代わりにバッグに取り付けてある為、何か起きた時はすぐに押せるようにしていた。

もうすぐでアパートというところで、前から自転車が走ってくるのが見える。
不意にぞわりと背筋に何かが走る感覚がして、私は体を硬直させたままその自転車を見ていた。

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