元心霊ビデオスタッフの本当にあった怖い話
投稿者:とくのしん (65)
ある心霊ビデオの製作に携わっていた男の体験談である。
男の名は今井。何事にも堪え性が無く、仕事も長続きしない。暇があれば賭け事の類に興じる、俗にいう溢れ者である。そんな今井も気が付けば30歳に差し掛かろうとしていた。さすがにまずいと思ったのか、心機一転真面目に仕事を探し始める。
しかし、まともな職歴はおろか手に職と呼べるものは何一つない今井に、世間は当然のように冷たかった。正社員として雇い入れてくれるところはなく、あったとしてもそれはブラック企業。今井はそんな現実を受け入れ、ブラック企業に飛び込んだ。営業、運送、製造・・・元来の堪え性の無さに加え、ブラック企業特有の過酷なノルマと勤務時間、さらにはパワハラ三昧に今井は職を転々とする。そしてついに身体を壊した。
今井はすっかり仕事に対する熱を失い、自暴自棄になっていた。一日中ネットを徘徊し、時間を無駄に浪費する毎日。次第に金も尽きてきた。そろそろ仕事を探さないと・・・とは思うが、ブラック企業でのトラウマが足枷となり前へ進めない。そんな今井の目にある求人が止まった。心霊ビデオの製作スタッフの募集である。
昔から心霊やホラーの類が好きだった今井は後先考えずに応募していた。これでダメならいよいよ自分がその類のお仲間になるしかない、そこまで考えていたらしい。応募から数日後に書類選考が無事通過し、面接の案内が届いた。
面接会場は製作会社が入る雑居ビル。会場には10人程の応募者がいたそうだ。面接では職歴、志望動機などのありきたりなことを聞かれた。面接官は40代前半くらいの男性で、いかにも業界人という軽い感じだったそうだ。面接は順調に進み最後に「あのさ、幽霊って本当にいると思う?」と質問された。
「いると思います。見たことはないけど自分はいると信じています!」
今井は大声で答えていた。面接官は笑っていたそうだ。
面接官に笑われながら会場を後にした今井は、これは落ちたなと思い、項垂れて帰路に着いた。
しかし、そんな予想を覆し後日採用の連絡があった。業界未経験ということもあり、“試用期間中は募集要項にあった給料より低い金額での採用になること”という条件付きだったが、社保の加入等もしっかりとあったそうな。今井はそんなことよりも採用されたことの喜びが大きかった。
初出社の日、今井はあの面接官と再会する。面接官の名は村田。ディレクターとしてある心霊ビデオシリーズを手掛ける者だった。村田は気さくで今井だけでなく、スタッフの面倒をよく見る男。今井が配属された製作部は8人の規模で、人が少ないことに驚いたという。村田曰く「心霊関連の作品に携わるとさ、みんなすぐ辞めちゃうのよw」と笑って言っていた。その言葉通り、スタッフの半数はほとんど同期といって過言ではないほど経験が浅い人間が多く、今井もそういう面では未経験ということで気後れしないで済んだ。
今井に与えられた最初の仕事は、投稿された映像のチェック。ひたすらモニターと格闘することになった。投稿された映像には「〇〇が映っています」といった投稿者からの説明があるが、そのほとんどが勘違いによるものだった。今井もこの類の映像はさんざん見てきたこともあって、ある程度見分けることには自信があった。
さすがに巧妙に作られたものは判別がつかず、村田に確認してもらうと「これプロの仕事だねw」と、見分け方のポイントを教えてもらうこともあって勉強になったという。今井も未経験の割によく見分けられるということでスタッフの中では評判だったそうだ。今井曰く、投稿映像が100本あったら本物は1~2本程度らしい。
入社から2か月もするといよいよ今井も現場デビューをすることになった。場所はT県のキャンプ場で、隣接した川に幽霊が映ったという投稿映像を作品にするという内容。今井を含め4人で現地に行くことになった。今井の仕事はもっぱら機材の運搬だが、初の現場にワクワクした。
現地に着くと投稿者というカップルが2人待っていた。村田と簡単に打ち合わせをし、すぐにカメラを回した。インタビュー形式で進行し、《いつ・何をしているとき・どんな状況で・何が映った》を詳細に語ってもらう。撮影は3時間程で終了した。
今井が機材の片づけをしていると村田がニヤニヤしてやってきた。
「お疲れ様です」
「今井ちゃん、初の現場どうだった?」
「いや、意外とあっさり終わったなぁって思いました。もっとあれこれ調査とか撮影するかと思ってましたから」
「あははwこれフェイクだからw」
「え?」
村田は戸惑う今井の表情を楽しむかのように言葉を続ける。
「そりゃ全部が全部本物なわけないじゃん。そんな本物ばかりだったらシリーズ続かないっしょ」
「まぁそうですよね」
「幻滅した?」
「いや、そういうもんだと思ってましたから。ただ、この投稿は取材するくらいだし、本物なのかなぁって思ってはいたんですけどね」
「今井ちゃん、わかってるじゃん。この映像はね、作ってもらったヤツだから。あ、さっきのカップルは2人とも役者さんだからねw」
今井が笑ってそれを聞いていると、村田が急に真面目な顔をした。
「今井ちゃん、これだけは覚えておいてね。“本物”はちゃんとあるよ。でもね“本物”ばかりだと誰もそれを信じなくなる。だから“嘘”が必要なんだ。“たくさんの嘘”のなかに“少しばかりの本物”を紛れ込ませる、こうすることで“本物”が引き立つんだよ」
可愛い女の子が目立たない女の子と仲良くして引き立て役に使う手法と同じだよ、と村田の例え話に、今井はこの言葉が凄く重いものに感じたそうだ。
全部が本物だと思いレンタルしたことがショックでしたが怖かったです。
何処か違う世界で彷徨っていますよ。
製作者側の目線で進む話に引き込まれた
僧侶が悪霊化する事もあるのかとか、村田さんが連れて行かれたのはあの世とこの世の狭間なのかもとか色々想像を掻き立てられる
営業、運送、製造がブラックみたいな書き方は悲しいのでやめて欲しいです
読んでいて映像が浮かぶ話は面白いですね。
文章力が高いですね。
読み応えがありました。
文章力素晴らしいです。
思わず引き込まれてしまいました。
リアリティと臨場感あふれ、自分も廃寺の中にいるような思いにさせられました。
目には見えない時空間のひずみゆがみに呑み込まれてしまった・・・・・とでもいうのだろうか。
その場にいた、あったはずの人間や物質が、僅かな時間のうちに、または一瞬で、忽然と姿を消す。事件事故霊障怪奇に関わらず、実際起こっているのは実に不思議だよねぇ。
戻ってきて欲しいですね。
本当に怖いかったです。
投稿者です。いつもたくさんの怖いをありがとうございます。
みなさんのおかげで大賞を頂きました。これからもどうぞよろしくお願い致します。
臨場感がありました。
悪霊僧侶はダークギャザリングの邪経文大僧正のイメージで脳内再生された
村田さん…
心霊作品はそこそこ怖い想いができてあとくされないのが一番
霊障にあって人生ダメにするのは合理的でない
この方の作品は全部面白い。素晴らしい。プロのようだ!