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心霊

真代さんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

うみがいい
短編 2025/04/04 18:37 966view

一昨年の夏に、仲のいい仕事場の人達と集まって怪談話をした事がある。これはその時に先輩から聞いた話だ。

当時大学生だった先輩は、奨学金と親からの仕送りで生計を立て、安いワンルームのアパートで一人暮らしをしていた。
大学はサボりがちでグータラ生活を謳歌していたそうだ。
その日もいつものように昼過ぎまで寝て、小腹が減って目が覚めた。まだ覚めきらない頭で部屋に食べるものがなにか無いか夢うつつ考えていると、明らかに部屋の中でハッキリと声が聞こえた。

『うみがいいなー うみがいいなー』

と。無機質に男の声で棒読み。
夢と現実が混濁して声が聞こえた気がしただけかと思い、寝ぼけ眼で体を起こし、部屋を見渡すと、部屋の隅に何かいる。こちらに背中を向けて、部屋の角の方を向いて直立。角刈りで、白い長袖のTシャツにジーンズ。どう考えても生きている人じゃないのに、ハッキリと鮮明に見えた。 するとまた、

『うみがいいなー、うみがいいなー、』

と壁に向かって話している。
今すぐ部屋から飛び出したかったが、急いで動いてこちらに気が付かれたくないなどとぼんやり考えているうちにもう一度、

『 うみがいいなー、うみがいいなー、』

もう既に小便漏らしそうではあったものの、動き出せない。部屋の中も外も嫌に静かで、そのせいもあって声もはっきりと聞こえた。

『 うみがいいなー、うみがいいなー』

また同じ機械のような言葉を発した時、パニックと恐怖で頭がおかしくなった先輩は、思わず、
『 なんでだよ!』と叫んだ。するとそいつは急に俯いて震え始める。そして

『うみは、人が浮くから。』

その瞬間、ばん!!!!と部屋中の窓がひとりでに一気に開け放たれ、じゃーーと全ての蛇口が開けられた。流石に命の危険を感じた先輩は一目散に裸足にパジャマで外に逃げた。
しばらくして部屋に戻った時には誰も居ず、窓も蛇口も閉められていた。水道代が気がかりだった先輩は一安心したそう。
それから暫くは怖くて眠れない日々が続いたが、そいつが現れることはなく、いつしか平気で眠れるようになってきていた。
そんなある日夜中に酷く喉が渇いて目を覚ますと、部屋の隅にまたあいつがいた。
今度はこちらを向いて真っ直ぐ先輩を見つめている。完全にパキッた人間の目をしている。
今度は何も発さない。ただ直立して真っ直ぐ先輩を見つめている。恐怖で体が動かない。しばらく膠着状態が続くも、そいつが静寂を破る。

『 いこうよ』

抑揚のない声でハッキリと。まだ体が動かない。

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コメント(1)
  • ( ゚д゚)

    2025/04/05/05:23

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