元心霊ビデオスタッフの本当にあった怖い話
投稿者:とくのしん (65)
それから取材の同行も増えていったある日、不気味な投稿映像が送られてきた。映像はとある廃寺の探索が行われている様子を撮影したもの。撮影者含め若い男女4人程で行動しており、今にも崩れ落ちそうな廃寺の中を探索している。本堂に立ち入ったあたりで女性が「声か聞こえる」と言い出した。送られてくる映像にはこういった「〇〇が見えた」や「〇〇が聞こえる」といったセリフじみた一言が多いらしく、今井もその類かと思ったがどうも様子が違う。
撮影者も何かに気づいたのかカメラの向きが落ち着かない。女が怖い怖いと泣き出した。軽快に喋っていた他の男連中が黙りだし、皆一様にその場に立ち尽くし様子を伺っている。静まった本堂の中で何か聞こえだす。音声にもそれがはっきりと聞こえてきた。
お経だ。
お経がどこからともなく聞こえている。その声を聞いてか撮影者たちはその場に立ち尽くしていた。すると何かを叩く音がし始める。
どん!どん!
女が悲鳴を上げる。「帰ろうよ!早く帰ろうよ!」
男の一人がヤバイヤバイ!と慌てふためいたそのときだった。本堂の奥に住職?お坊さん?が1人立っていた。笠を被っているため表情を伺うことはできない。
唐突に現れたお坊さんを前に、一斉に逃げ出す撮影者たち。その間もお経は続いていた。
「いいねぇ、久々の当たりだ。次の調査はここにしようか」
映像を見終えた村田がポツリ呟く。すぐさま女性スタッフに「先生の予定確認しといて」と指示を出していた。
後日、投稿者に話を聞くいつものインタビューから始まった。撮影場所はM県の山中にある廃寺で、有名な心霊スポット。その日、4人で肝試しをすることになり、心霊ビデオを撮りたいとカメラを持参していったそうだ。事の顛末は前述した通りということになる。
「こういうの撮影すると呪われるんですかね」
「霊能者の先生いるから相談してみますか」
カメラを持っていたという男の質問に、村田はそっけなく返答した。この日は自称霊能者という方が同行していた。他の現場でも別の霊能者が同行することはあったが、役者を使ったりしていたそうで、本物はいないと思っていたそうだ。しかし今回の先生と呼ばれる人は雰囲気からして違ったという。村田のいう“本物”だったそうだ。霊能者曰く、悪い気が4人に憑いており、放っておくのはよくない。部屋にお札を貼って置くようにと人数分差し出した。
投稿者たちと別れ、現場を目指す。現場までは車で1時間程で到着するらしく、昼間のうちに一度下見しておきたいと霊能者は言った。霊能者は高見という名で、50代くらいの男性、強面で一見すると反社のような風貌。先生は顔が怖いから霊も近寄らないでしょwなどと村田が冗談をいうと高見は苦虫を噛み潰したような顔を見せた。
山道を進むと途中で道が分岐し、細い道を進んだ奥に現場の廃寺はある。誰も通らないためか道は荒れ気味。草木も伸びきっており、まるで人の立ち入りを拒むかのよう。車を降りると長い階段があり、それを登った先に廃寺が姿を現した。廃寺となりどれくらいの月日が流れたかは不明であるが、かなり痛んでおり今にも崩れそうな感じさえ受けたそうだ。
高見は廃寺を見るなり、ここは危険だと言い出し、村田に撮影はやめるべきだと進言する。村田は先生がそういうなら本物じゃないですか、久々の当たり案件を見逃す手はないと反論した。他のスタッフは黙ってそれを見ているしかなかったが、今井は内心楽しみだった。
いよいよ撮影時間、夜中の0時を待って廃寺に向かった。高見は命の保証ができないと一人帰ってしまった。そんな状況に村田は、霊能者が断る案件だからと意気揚々と撮影を始めた。
こういう場面に出くわすと村田はやたらとリアリティに拘るらしく、台本はあってもアドリブ重視になるそうだ。といっても廃寺が醸し出す雰囲気に台本のセリフなどすっかり頭から飛んだという今井。一言も話せないまま、廃寺の手前まで辿り着いた。村田が先頭を切って、廃寺に入る。
入ってすぐに広がる本堂。懐中電灯で辺りを照らしてみるが、特に変わったものはない。しばらくすると女性スタッフの須藤が持っていた懐中電灯が点滅しはじた。今井もそれまで感じたことのないような雰囲気を感じていた。
カメラマンが「映像にノイズが入る」と言い出したその時だった。どこからともなくお経が聞こえてきた。投稿映像と同じシチュエーション、その場にいた誰もが声一つ出せないでいた。村田が「うぉっ」と驚いた様子を見せ、一同の呪縛が解けたように一斉にビクっとする。「先生に貰った数珠が弾けた」と言った刹那、須藤が悲鳴を上げた。
視線の先にお坊さんが現れたのだ。現れると同時にお経の音量が大きく膨れ上がった。どこから音が聞こえるかわからない。その音は四方八方から聞こえてくるようだったと今井は言った。お坊さんは微動だにすることなく、片合掌の姿勢でこちらを向いている。笠で表情は伺いしれないが、お坊さんが放つ怒りは伝わってきた。
気が付けば今井達はその場から逃げていた。一目散に廃寺を飛び出し、転げるように階段を駆け下り、車へとたどり着く。車を発車させようとしたが村田の姿はない。
「村田さん!」
今井は普段出さないような大声で村田を呼んだ。しかし村田の姿はどこにもない。
誰もが1秒でも早くその場を離れたかった。しかし村田を置いてはいけない。今井は意を決して、カメラマンと階段を上がり廃寺の手前まで向かった。廃寺からは相変わらずお経が漏れている。
「村田さん早く!早く!」
今井とカメラマンは必至に村田を呼んだ。すると
「おう、早くこい。こっちこいよ」
廃寺から村田の声が返ってきた。
全部が本物だと思いレンタルしたことがショックでしたが怖かったです。
何処か違う世界で彷徨っていますよ。
製作者側の目線で進む話に引き込まれた
僧侶が悪霊化する事もあるのかとか、村田さんが連れて行かれたのはあの世とこの世の狭間なのかもとか色々想像を掻き立てられる
営業、運送、製造がブラックみたいな書き方は悲しいのでやめて欲しいです
読んでいて映像が浮かぶ話は面白いですね。
文章力が高いですね。
読み応えがありました。
文章力素晴らしいです。
思わず引き込まれてしまいました。
リアリティと臨場感あふれ、自分も廃寺の中にいるような思いにさせられました。
目には見えない時空間のひずみゆがみに呑み込まれてしまった・・・・・とでもいうのだろうか。
その場にいた、あったはずの人間や物質が、僅かな時間のうちに、または一瞬で、忽然と姿を消す。事件事故霊障怪奇に関わらず、実際起こっているのは実に不思議だよねぇ。
戻ってきて欲しいですね。
本当に怖いかったです。
投稿者です。いつもたくさんの怖いをありがとうございます。
みなさんのおかげで大賞を頂きました。これからもどうぞよろしくお願い致します。
臨場感がありました。
悪霊僧侶はダークギャザリングの邪経文大僧正のイメージで脳内再生された
村田さん…
心霊作品はそこそこ怖い想いができてあとくされないのが一番
霊障にあって人生ダメにするのは合理的でない
この方の作品は全部面白い。素晴らしい。プロのようだ!