俺は心霊スポット巡りが趣味で、日本各地の噂の場所を訪れていた。そして、ついに“最恐”と名高い犬鳴トンネルに行く決心をした。
時刻は深夜2時。福岡県の山奥にある犬鳴峠を車で走る。途中から舗装が荒くなり、ガードレールもなくなる。スマホの電波も途切れた。
「やっぱ、ここヤバいな……」
助手席の友人・タカシも緊張した面持ちで言う。肝試しとはいえ、ただの遊びじゃすまない空気が漂っている。
やがて、見えてきた。
犬鳴トンネル。
コンクリートが黒ずみ、落書きで埋め尽くされた旧トンネルの入口。崩れかけた封鎖ゲートを乗り越え、俺たちは中へ足を踏み入れた。
ザッ……ザッ……
足音が不気味に響く。湿った空気が肺にまとわりつき、異様な臭いが鼻をつく。
「……おい、何か聞こえねえか?」
タカシが囁く。俺も耳を澄ませた。
カリ……カリ……
遠くから、何かをひっかくような音がする。
「おい、帰ろうぜ……」
タカシが震える声で言った。だが、その瞬間、
バン!!
後ろで鉄扉が閉まるような音がした!
振り向くが、誰もいない。風もないのに、勝手に音が鳴るはずがない。
「お、おい……!」
タカシの肩を掴もうとしたその時――
背後から、“何か”が俺の耳元で囁いた。
「かえらせない……」
ゾワッと全身に鳥肌が立つ。恐怖で硬直した俺の目の前に、血まみれの顔が浮かび上がった。
白い服。目は真っ黒にくぼみ、口が裂けるように歪んでいる。
「うわあああああ!!」
俺とタカシは全力でトンネルを駆け抜けた。足がもつれながらも、やっとの思いで外へ飛び出す。振り返ると、誰もいない。
ただ、トンネルの奥で――
「また……くる……」
微かに、そう聞こえた気がした。
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