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呪い・祟り

モンタージュさんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

大学の底地
長編 2026/04/01 12:57 308view

1. 浅井

 最寄り駅からスクールバスに乗るか、歩くか。
 その日の気分で決める。
 今日は歩くことにした。
 田んぼの間を抜けて、大学へ続く道に入る。
 門をくぐると、なだらかな上り坂が続く。
 いつ歩いても心地良い。
 上りきった先に校舎がある。
 広大な敷地が広がっている。
 グラウンド、駐車場、中庭。
 図書館、体育館。
 食堂、コンビニ。
 入学して2年。
 この風景にも慣れた。

「ねえ」
 後ろから声をかけられた。
 振り返ると、女の子が立っていた。
 年は同じくらいに見える。
 整った顔立ちで、どこか柔らかい雰囲気だった。
「1年生?」
 そう聞かれて、少し笑う。
「いや、2年生だけど」
「そっか」
 女の子は納得したように頷いた。
 そのまま、当たり前みたいに隣に並ぶ。
 甘い香りがふわっと鼻腔を抜ける。
「いつも歩いてくるの?」
 と透き通った声で
「ほとんどバスだけど今日はたまたま」
 初対面のはずなのに、妙に馴染む。
「中庭まで歩かない?」
「え?うん……いいけど」
「うん」
 突然話しかけてきて、この子は何を言っているんだ。
 でも、自然と受け入れていた。
「名前、聞いていい?」
 俺がそう言うと、女の子は少しだけ考えてから言った。
「……直美」
 ためらいなのか恥じらいなのか。
 でも、そんな事はどっちでもよかった。
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 昼休み、俺はいつもの3人と食堂にいた。
「で、その子とどうしたの?」
 早川が身を乗り出してくる。
「いや、普通に話しただけだって」
「絶対連絡先聞いてねーだろお前」
「聞いてねえよ」
「もったいな」
 俺だったらガンガン攻めるねと松原が笑う。
 女の話になると茶化しながら根掘り葉掘り聞いてくる。
 相変わらずの2人だ。
 そんな中、遠藤だけは黙っていた。
「どうした?」
 声をかけると、はっとして顔を上げる。

「ん?いや、なんでもない」
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「……その坂さ、夜通ったことある?」
 タバコを吸うのは俺と遠藤だけだ。
 食後にいつも2人で喫煙所に行く。
「夜?ないけど」
「そうか」
 遠藤が紫煙を吐き出す。
「俺の知り合いがさ、会ったらしいんだよ。女に。あの坂で」
 遠藤は少し視線を落とした。
「女って?」
「さっきおまえが話してた」
 似てるんだよ特徴がと淡々と答える。
「それから、そいつ、音信不通なんだよ」
 タバコを灰皿に押し付けながら真剣な眼差を俺に向ける。
「関わらない方がいい」
 遠藤のその言葉はあまり耳から奥に入っていかなかった。
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 その日の帰り、俺は当たり前のように歩いて帰った。
 直美はまた坂の途中にいた。
「待ってた」
 そう言って笑う。
 自然と並んで歩く。
 陽光に包まれた髪が反射する。
「ここ、静かでいいよね」
「田舎だしね」
「ううん、そういうことじゃなくて」
 直美は前を見たまま言う。
「ちゃんと残ってる感じ」
 何が、とは言わなかった。彼女の微笑む唇を見たらそんなことどうでもよかった。
「松原君って君の友達?」
「え、うん。知り合いなの?」
「ううん…そうなんだね」
 不思議とそれ以上気にならなかった。
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 翌朝、駅で早川と一緒になった。
「あれ、松原は?」
「あー、あいつ今日いなかったんだよね。寝坊じゃね?」
 住んでいるアパートが同じ2人は毎朝だいたい一緒に来る。
「昼までに来なかったら電話するか。午後から必修だし」
 と早川とバスに乗り込む。
 俺は、少しだけ引っかかった。
 昨日の遠藤から聞いた話を思い出したからだと思う。
 午前中の講義が終わっても松原は来なかった。
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 翌日、直美は黒髪を耳にかけながら、澄んだ瞳を俺に向けて
「昨日、人少なかったね」
「そう?」
「うん。前はもっといたよ」
 前っていつだよ、とは言わなかった。
 ただ彼女の隣にいるだけでよかった。
「ねぇ、昨日はバスだったの?」
「うん。連れと一緒だったからその流れでね」
「そっか」

 直美の指が俺の服の袖をつかむ。
「今日は帰りも歩きだと思う」
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 昼休み。
「松原ってさ」
 ふと口にした瞬間、早川が首を傾げた。
「松原?誰?」
 一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「いや……」
 言葉が続かない。
 遠藤もきょとんとしている。
 早川がそんなことよりと言う。
「そういえばこのキャンパスなくなるらしいな」
「え!?マジで?」
 遠藤も初耳だったらしい。
「うん。ここ借地だから2年後には返さなきゃなんないんだって」
 …そんな話初めて聞いた。
 最後の卒業生になるのか。
 直美って何年生だっけ。
 一緒に卒業できるのかな。
「おい、聞いてんのか?」
「ん?うん。じゃあギリ俺らは卒業までこのキャンパスなんだな」
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「ねえ」
 その日の帰り、沈みかけた夕日を背に直美が言った。
「君はいつもちゃんと見てくれるね」
「何を?」
「ここを」
 足元を指さす。
 何もない地面だった。
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 騒音が増えた。
「うるさいな、最近」
 俺が言うと、直美は少し嬉しそうに唇を動かす。
「もうすぐだからね」
「何が?」
「還すの」
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 その日、俺はフェンスの前に立っていた。
 校舎はなかった。
 体育館も、図書館も、食堂も。
 全部なくなっていた。
 代わりに、掘り返された土と、重機。
 むき出しの地面。形を残した中庭。
「工事、進んだな」
 そう呟く。
 直美はその先を見ていた。
 大きく掘られた穴の底を。
「もうすぐ、みんな出てこれるね」
 穏やかな声だった。
 俺は頷いた。
「そうだな」
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 ここは、静かでいい。
 誰もいないし。
 これからも、来ることはない。

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