「ずっと一緒にいられるね」
直美がそう言った。
俺は、少しだけ笑って頷いた。
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2. 遠藤
浅井が、その話をしたのは昼だった。
食堂で、いつもの席。
「今日さ、歩いてたらいい感じの子に話しかけられてさ」
軽い調子だった。
「で、その子とどうしたの?」
早川がにやけながら身を乗り出す。
「いや、普通に話しただけだって」
松原がすぐに食いつく。
「絶対連絡先聞いてねーだろお前」
「聞いてねえよ」
「もったいな」
いつも通りのやり取り。
でも妙な感覚があった。思い出しかけた、みたいな。
ただ……似てるな、と思った。
昔聞いた話に。
地元のやつで、もう連絡も取ってない。
そいつが言っていた。
「坂で女に会った」って。
妙に印象に残っている。
整った顔で、やわらかい雰囲気。
話し方が自然で、
気づいたら一緒に歩いている。
「どうした?」
浅井に声をかけられて、我に返る。
「ん?いや、なんでもない」
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食後、いつも通り喫煙所へ。
昼のあと、ここに来るのが習慣になっている。
浅井と2人。
火をつけて、一服する。
「……その坂さ」
言うつもりはなかったけど、口に出た。
「夜通ったことある?」
「夜?ないけど」
「そうか」
煙を吐く。
言うか、迷った。
「俺の知り合いがさ、会ったらしいんだよ。女に。あの坂で」
こういう話は、だいたい笑われるが、手遅れになる前に
「女って?」
「さっきおまえが話してた」
浅井は、少し笑った。
その顔が、妙に引っかかった。
なんていうか…魅入られているような。
「それから、そいつ、音信不通なんだよ」
浅井の表情は変わらない。
「関わらない方がいい」
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その日の帰り、最後の講義が同じだった松原と俺は帰り道が一緒だった。
「なぁ、浅井が言ってた女いるかもしれないから歩いて帰らね?」
どんな子か見てみようぜと松原が言う。
「いやいや、やめろって!」
自分でもびっくりするほど大声が出てしまった。
「なにマジになってんだよ~いいだろ?ちょっと歩くだけだし」
「ちょっと気になることがあるんだよ…」
オカルトを一切信じない松原に響く言葉が見つからない。
「まぁいいや、俺途中でコンビニ寄りたいし歩いていくわ」
「おい、待てよ!」
松原はじゃあと言って歩いて行ってしまった。
なぜか追いかける気にならなかった。
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翌日の昼休み、松原がいない。
「松原は?」
「まだ来てないんだよね。さすがに昼には来ると思ってたんだけど」
そろそろ電話してみるかと早川が言う
浅井は特に気にも留めていない様子で食券機のボタンを押している。
まさか、昨日の帰り何かあったんじゃ…
俺は松原にすぐ電話してみたが、つながらない。
頭の奥が、冷たくなる。
夕方になっても折り返しはなかった。
早川にも聞いてみたが、結局午後の講義にも出席しなかったらしい。
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翌日、バスに乗って登校していると、坂を1人で歩いている浅井が見えた。
その表情は一昨日の喫煙所で見せた表情と重なった。
目がうつろで口元だけにやけている。



























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