消えたサ〇ダくん

私が小学４年の時、同じクラスにサ〇ダくんという生粋のいじめられっ子がいました。
背は平均より小さく、細身というか、ガリガリに痩せ細った男の子で、クラス内では「ガイコツ」や「囚人」なんて呼ばれてて、男子達にいつも揶揄われたりいじられているような男の子です。
それでもサ〇ダくんはやり返そうともせずに「アハハ」と自分がいじめられているのに気づいていないのか、一緒になって笑っていました。

女子の私からしてみればイジメにしか思えませんでしたが、男子達は「サ〇ダはあれで楽しそうだからいいんだよ」と言って、過度ないじりを止めるつもりはありません。

給食の時間、男子達はサ〇ダくんに一気食いを促して、よせばいいのにサ〇ダくんも期待に応えようとしているのかご飯とかサラダを搔き込むように食べ始めるとやっぱり喉を詰まらせて吐き出していました。
その吐瀉物が男子の中でも一番のいじめっ子だったＢ君の服に付着してしまい、サ〇ダくんは思いっきり肩を殴られました。
椅子から転げ落ちたサ〇ダくんを、いじめっ子は「きたねえなテメエ！」と怒鳴りつけると、サ〇ダくんは「ごめん、ごめん、ごめん」と肩を抑えながら土下座する勢いで頭を床につけていました。

ちょうどこの日、担任は用事で早くに昼を切り上げて既に教室に居なかったので、見兼ねた女子グループが「男子うるさい」「やめなよ」「ちゃんと掃除しといてよ」なんて野次を飛ばした事で、男子達は「知るか、サ〇ダが勝手に吐いたんだろ」と言ってサ〇ダくんを放置してそれぞれの席に戻り、この時は収束しました。

残されたサ〇ダくんは教室脇にかけられた雑巾を持ってきて一人後片付けをしていましたが、男子達はその様子を見てニヤニヤと笑っていました。

その日を境に、サ〇ダくんは男子達から何かある度に肩を殴られるようになったみたいです。

通称「肩パン」と言ってましたが、男子達は挨拶がてらサ〇ダくんを見つけると肩にパンチをするのが流行し、サ〇ダくんはまるでサンドバック、もしくはストレス解消グッズか何かの扱いを受けるようになりました。

特にＢ君は男子の中でも一際背が大きく、腕力も強かったのですが、Ｂ君とは対照的に小柄のサ〇ダくんの方を思い切り殴り飛ばしては高笑いしていました。
女子視点でも「痛そう」とか「やりすぎじゃない？」と専ら話題に上がっていましたが、やっぱり私も含めてＢ君のイジメの対象になりたくない気持ちが勝って先生に告げ口する勇気は出ませんでした。

そんなある日、私はサ〇ダくんと同じ班になり、校内の掃除中にたまたま二人きりになる時間が出来たので、思い切って話しかけたのです。

「ねえ、先生に言ったほうがいいんじゃない？痛いでしょ？」

するとサ〇ダくんは持っていた箒の動きを止めて、私に向き直りこう言いました。

「ダイジョウブ、ダイジョウブ、もう消えるから」

私は首を傾げましたが、サ〇ダくんは「ダイジョウブ、ダイジョウブ」とまるで呪文のように復唱すると、掃除に戻ってしまいました。

『ダイジョウブ、ダイジョウブ、もう消えるから』

機械的で自我のない声質。

その言葉の意味が分からず暫く考えていた私は、サ〇ダくんの体に出来た傷痕を見て、たぶん、怪我が治る事を言っているのだと勝手に納得しました。
見た目に反してそこまで痛くないのかなとも思いましたが、サ〇ダくんが大丈夫と言うなら私がとやかく言うことじゃないと思ったのです。

しかし、翌日に異変は起こりました。
Ｂ君が交通事故に遭ったのです。
命はあったものの、それでも両足切断を余儀なくされた大事故だったらしく、Ｂ君は精神的にも酷く錯乱していて特別支援学級などの支援が行き届いた学校に転校する事になり、私達の前から突然居なくなりました。

担任からＢ君の事を聞かされた教室は騒然となりましたが、ただ一人だけ、サ〇ダくんだけは不敵にニヤニヤとしていたのを覚えています。

私は一瞬、サ〇ダくんがＢ君に仕返しでもしたのかと考えましたが、交通事故にサ〇ダくんが関わるのは無理筋だと思い、偶然だと思いました。
ただ、もし呪術なんてものが存在するのなら、先ず間違いなくサ〇ダくんはＢ君に呪いをかけたに違いないと勝手ながら考えてしまいました。
それほどサ〇ダくんの顔つきは不気味だったのです。

Ｂ君が居なくなってからもサ〇ダくんのイジメは無くなりません。
恒例の肩パンも続いており、一時期はサ〇ダくんの肩が外れるなんてアクシデントも起きましたが、先生達は学生によくある危ない遊びの流行と受け止めるだけで厳重注意で済んでいました。