夜、しんとしたリビングで、小学5年生のゆうとくんは一人で宿題をしていました。お父さんとお母さんは共働きで、帰りが少し遅いのです。時計の針は9時を回っていました。
カタカタ…と鉛筆の音だけが響く中、突然、玄関のチャイムが「ピンポーン」と鳴りました。
「あれ?お父さんかお母さんかな?」
ゆうとくんはそう思って玄関に向かいました。ドアの向こうには誰もいません。「いたずらかな?」と思いましたが、少しだけ嫌な予感がしました。
再びリビングに戻って宿題を始めようとすると、今度は後ろの窓が「コンコン」と小さく叩かれたのです。
びっくりして振り返ると、そこには誰もいません。風の音かな、と思いましたが、今日はほとんど風が吹いていません。
ドキドキしながらもう一度宿題に戻ると、今度は廊下から「ぺたぺた…」という、誰かが歩くような音が聞こえてきました。
ゆうとくんは息をひそめて耳を澄ましました。音はだんだん大きくなって、リビングのドアの前で止まりました。
「だれ…?」
ゆうとくんが小さくつぶやくと、ドアがゆっくりと、ギィ…と音を立てて開き始めたのです。
心臓がドキドキして、ゆうとくんは固まってしまいました。
ドアの隙間から見えたのは…
誰もいませんでした。
「やっぱり気のせいかな…」
そう思って少し安心しましたが、次の瞬間、背後から冷たい風が吹いてきました。
振り返ると、さっきまで閉まっていたはずの窓が、カタカタと音を立てて少しだけ開いているのです。
ゆうとくんは怖くて声も出ません。急いで立ち上がって、お父さんとお母さんに電話しようとしましたが、なぜか携帯電話が繋がりません。
どうしよう…とゆうとくんが震えていると、また廊下から「ぺたぺた…ぺたぺた…」という足音が聞こえてきました。
今度はさっきよりもずっと大きく、そしてだんだん近づいてくるのが分かりました。
ゆうとくんは、リビングの隅っこで小さくなって、目をぎゅっと閉じました。
足音はついにリビングのドアの前で止まりました。
そして、低い声が聞こえたのです。
「ゆうと…」
それは、ゆうとくんのお母さんの声に、少しだけ似ていました。
でも、どこか違う、冷たくて、ぞっとするような声でした。
ゆうとくんは怖くて目を開けることができません。
「ゆうと…どこにいるの…?」
声はだんだん近づいてきます。ゆうとくんは、もうどうしたらいいか分かりませんでした。
その時、玄関のドアが開く音がしました。
「ただいまー!」
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