大学生の健太は、破格の値段で古びた一軒家を借りた。古いが広く、特に問題はない。ただ、一つだけ妙なことがあった。
それは、地下室の奥の小さな扉。
板で雑に塞がれたその扉について、大家に尋ねたことがある。しかし、彼は言葉を濁し、こう言っただけだった。
「あそこは開けないほうがいい」
しかし、人間というのは不思議なもので、「開けるな」と言われると余計に気になるものだ。
ある夜、酒に酔った勢いで、健太はその扉の木の板を外した。錆びた蝶番が軋み、扉がゆっくりと開く。
中から、腐臭の混じった湿った空気が流れ出してきた。懐中電灯で照らすと、そこは異様な空間だった。
床にはボロボロのマットレスが敷かれ、壁には無数の爪痕が刻まれている。
「……何だよ、これ……?」
震えながら懐中電灯を向けると、床に一冊の古びたノートが落ちていた。
表紙には手垢がつき、ボロボロに擦り切れている。ページをめくると、震える字でこう書かれていた。
「ここから出してくれ。あいつが来る前に……」
読んだ瞬間、背後で**ギィ……**と音がした。
振り向くと、地下室の入り口は開けたままのはずなのに、何かがこちらを見ている気配がする。
「……誰かいるのか?」
懐中電灯を再び小部屋の奥へ向けると、暗闇の中で何かが動いた。
四つん這いの人影。
痩せ細り、髪は伸び放題、爪が異常に長い。青白い肌に、ギラつく目。そいつは、じっと健太を見つめていた。
「……見つけた」
歪んだ口元がゆっくりと開き、不気味な声が漏れる。
健太は本能的に逃げようとした。しかし、足がすくんで動かない。
その時、影が一歩、また一歩と這うように近づいてきた。
「お前、誰だ……?!」
すると、影は苦しそうに喉を鳴らしながら、しわがれた声を絞り出した。
「……俺は……この家の……本当の……持ち主……」
健太の背筋が凍った。
ノートのページをめくると、新たな文字が目に飛び込んできた。
「今の大家は……偽物だ。そいつは俺の姿を奪い、ここに閉じ込めた……」
「……っ!!」
突然、地下室の入り口の扉が**バタン!**と閉まった。
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