目を覚ました瞬間、俺は冷たい石の床に倒れていた。頭が重く、体がだるい。手を伸ばすと、触れるのは無機質な石の感触。周囲は暗く、薄明かりがかすかに浮かんでいる。
「またか…」
毎度のことだ。この感覚、異世界に転生したときのものだ。俺はどこか無感情に立ち上がり、辺りを見渡す。しかし、いつもとは違う。いつもなら、この場面で俺は「勇者」として王から使命を受けるはずだ。だが、何も起こらない。
しばらくすると、遠くから聞き覚えのある声が響いてきた。
「勇者よ、魔王を討伐し、この世界を救ってくれ」
その声は冷たく、どこか不安定に響いた。まるで機械的な音声のようだ。
俺は一瞬、足を止めたが、何かが違う。いつものゲームのように選択肢が表示されるべきなのに、それもない。ただ、繰り返し同じセリフが響く。
「……勇者よ、魔王を討伐し、この世界を救ってくれ」
何度も何度も。まるでループするかのように。だんだんと、その声が歪んできた。
「勇者よ、魔王を討伐し、この世界を救ってくれ」
俺は首を振り、選択肢がないことに気づいた。画面のエラーのように、何かが壊れている。
「……いいえ」
それでも声は続ける。
「勇者よ、魔王を討伐し、この世界を救ってくれ」
俺は何度も答えようとしたが、次第にその声に嫌悪感を覚える。何かが変だ。
「いいえ」
「勇者よ、魔王を討伐し、この世界を救ってくれ」
その声が、もはや呪詛のように聞こえた。だんだんと、目の前の王の顔が歪み始める。
王の目がぎょろりと大きく開き、そこから黒い液体が滴り落ちる。その顔はまるでデータが破損したかのようにゆがみ、目からは異常なほど長い触手がのびてきた。
「な、何だ、これ…?」
王の口からは、人間とは思えないような音が漏れ始めた。まるで腐った肉が引き裂かれる音、機械のような音が響く。王の顔が完全に崩れ、今度は真っ黒な影のようなものがその姿を包み込む。
「……お前、データじゃないだろ?」
その言葉が俺の耳に届いた瞬間、空間が崩れ始める。
壁がひび割れ、床が浮き上がり、空気すら震えだす。何かが目の前で爆発し、俺の足元が崩れる。
「データの不正……修正開始」
冷たい機械音が耳元で鳴り響く。足元の床が裂け、俺はその中に引きずり込まれるように落ちていく。
「何が起きてるんだ?」
必死に手を伸ばすが、誰かに掴まれるような感覚もなく、ただ引きずり込まれる。視界が歪み、空間がモノクロになり、辺りが崩れ去る。
「削除開始」
その瞬間、全ての光が消えた。周りの音も止まる。何もかもが沈黙し、俺はただ真っ暗な空間の中に投げ出された。
























西谷史のデジタルデビルストーリーみたいで面白い