私は間もなく命を失うことになるでしょう。
独房の薄汚れた天井を見上げながら、私はその事実を確信しております。いつからか、影が私に囁きかけるようになりました。「お前も彼らと同じ運命を辿る」と。彼らとは、私が手にかけた者たちのことです。
この手記をお読みの方がいらっしゃるならば、私が何をしてきたのかを知りたがることでしょう。しかし、それは大したことではありません。私はただ、殺めました。理由などございません。ただ、その衝動に駆られたのです。
最初の殺人は、偶然でした。夜道を歩いていたところ、背後から足音が聞こえました。振り返ると、そこには若い男が立っていました。彼の目が私を捉えた瞬間、胸の奥に熱い衝動が生まれ、気づけば私の手にしていたナイフが彼の喉を貫いておりました。彼は何かを言おうとしましたが、喉から泡がこぼれるばかりでした。その表情を目の当たりにした時、言葉にできない快楽が背筋を駆け抜けたのです。
それ以来、私の人生は殺めることに支配されました。あの感覚を再び味わいたくて、夜の街を彷徨いました。次々と獲物を見つけ、幾度となくナイフを振るいました。
しかし、ある日を境に変化が訪れました。私が手にかけた者たちの影が、目の前に現れるようになったのです。最初は夢でした。暗闇の中、彼らが血まみれの姿で立ち尽くしていました。次第にそれは現実へと浸食し、私は目覚めている間でさえも彼らの姿を見るようになったのです。
鏡を覗けば、背後に彼らの姿が映り込む。食事をしていれば、皿の中に彼らの歪んだ顔が見える。耳を塞ごうとも、彼らの囁きは止むことはありません。「なぜ殺したのか」「苦しい」「お前もこちらへ来い」
やがて、私は捕まりました。警官に取り押さえられたその瞬間、彼らの影が微笑んだように見えました。裁判などどうでもよかったのです。死刑を宣告された時、私は安堵すら覚えました。これでようやく彼らの声から解放されるのだと。
しかし、私は気づいてしまいました。
彼らは、私の死を望んでなどいないのです。むしろ、死の向こう側で私を待ち構えているのだと。
それならば、私も彼らと再会するのが楽しみでなりません。あれほど愛おしい時間を共に過ごした彼らが、今度はどんな顔で迎えてくれるのでしょうか?
私が間もなく命を失うことに、もはや恐れはありません。
その時こそ、私の新たな楽しみが始まるのです。
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