達也と俺は、204号室の前に立っていた。管理人が言うには、しばらく誰も住んでいないはずなのに、夜な夜なノックの音がするとか。
「開けるぞ」
達也がドアノブを回し、扉を押し開く。
埃っぽい空気が流れ出し、室内はどことなく湿っていた。家具もなく、ただがらんとした部屋。しかし、床には何かが落ちている。
「……メモ?」
達也は部屋の入り口に立ったまま様子を窺っている。俺はふと、そのメモに目を落とした。
【この部屋では、読んではいけない】
胸がざわつく。
「おい、なんかあったか?」
達也が尋ねる。
「いや……ただの紙切れだ」
そう言いながら、俺はメモをめくった。
【読んだら、もう戻れない】
何かが背後に立っているような気がした。振り返るが、達也はまだドアの向こうにいる。
【あなたは今、独りじゃない】
瞬間、全ての音が消えた。
「おい、なんか言ったか?」
達也の声が遠い。
目を上げると、部屋の様子が僅かに変わっている。さっきまで開いていたドアが、今は少しだけ閉まっているように見える。
嫌な予感がする。完全に閉まったら、もう二度と出られない——そんな確信が頭をよぎる。
「達也……?」
俺は咄嗟にドアへ駆け寄る。しかし、足が異様に重い。何かに引っ張られている?
「おい、なんで黙ってんだよ!」
達也の声がする。ドアは、開いているのに。
俺は、確かにここにいるのに。
メモの最後の一文に気づく。
【この部屋では、ノックの音が聞こえたら、もう遅い】
読んだ瞬間、理解した。
夜な夜な204号室からノックの音が聞こえていたのは、閉じ込められた誰かが助けを求めていたからだ。
でも、それに気づいたときにはもう遅い。
「204号室」ってなんか不吉な感じの部屋番号って考える人も居るからかホラードラマ「いちばん暗いのは夜明け前」 の舞台として使われた。 処分されたらしく近所のレンタル屋にはもう置いてなくてもはや「幻のドラマ」と化したのも怖い