訛り村
投稿者:田沼縷縷 (2)
すっかり日も暮れ午後7時。
実家に戻り、宴会も始まります。
やはりAの姿は見えません。
我が家で育った野菜やBの家で育てている牛肉などが振る舞われ、都会に慣れていた私ですが、自分の村も捨てたものじゃないなんて思っていました。
そんな中、贈り物があると少し大きなガムのようなものを渡されました。
それが何か問うと、皆一斉に懐から石を出し、一心不乱に舐め始めました。
思わず後ずさると、村長にぶつかりました。
村長だけは石を舐めておらず、にこにこと笑いながらその様子を見ていましたが、ぶつかった私を受け止め、またにこにことしながら話し始めました。
「この村の歴史は古く、幕末の頃には中々大きな集落じゃった。けんど飢饉が起こり、多くの人間が命の危機にさらされよった、そんな中、異人が持ち入れた物がこの石じゃ。鉛じゃ。異人はこんを渡して消えよった。」
となると皆は鉛を舐めていることになる。鉛は中毒性を持っており、人体に害があることを知っていたので、鉛とわかったとたんに投げ捨てました。
「あーあー、そげなことしよるとAが可哀想じゃろ、拾いはり。」
A?Aが可哀想とはどういうことなのでしょう。
「そうか、おまんは知りよらんのか。そやったら、ついてこい。Aを見せちゃろう。」
言われるがままついていき、山奥の井戸を除くと大きな金属が見えました。
「あれがAじゃ。鉛になっとる。だいぶん削ってしもたけんどな」
思考が停止します。あれがA?人間が鉛になる?村長を問い詰めます。
「異人が来よった言うたやろ?その異人が伝えよった飢饉避けの方法じゃ。元服するくらいの歳の子を鉛で殴り殺して井戸に投げ入れるんじゃ。そんで、そこに大人の爪と髪を5人分入れよって1ヶ月待っちゃれば、そんが鉛になりよるんじゃ。お前とAとBの3家があるじゃろ?その3家で世代ごとに回しとるんじゃ。お前の世代はAじゃったけんど、次ぁお前んところじゃ。はよう女もろて村帰ってこいな。」
思わず、殴ってしまいました。Aは最も仲が良い友人でしたので、怒りが抑え切れなかったのです。
すると村長はいやらしい笑みを浮かべ、甲高い声を出しました。
すると、示し合わせたように、示し合わせないと無理なほどのタイミングで、隣町のお巡りさんに捕まりました。きっとグルだったのでしょう。
刑務者に入りました。大学は取り消されました。
私は、本日漸く出所して、これを書いています。これを書き終えたら逃げるために死ぬつもりです。これを読んでいる貴方、関西の山奥の村にはいかないようしてください。
どうか、気をつけてください。
これで話は終わりです。
私のトラウマとなった理由は、内容もさることながら、この手紙を拾った後、草陰から見知らぬお爺さんが石を舐めながらコチラを見て、笑っていたのを見てしまったからなのです。
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