笑い話
投稿者:田沼縷縷 (1)
駄菓子屋にはおどろさんがいる。
おどろさんは、お金をはらうと怖い話をしてくれる。
いつもニヤニヤしながら、蝋燭一本立てて部屋の中。
ご丁寧にお品書きまで書いてくれている。
かくいう私も幼い頃から通い詰めている。
これはそんなおどろさんに聞いた、笑い話だ。
その日のおどろさんは少し違った雰囲気で話し始めた。
ふふ、今日は特別な話をしてあげよう。
君も随分きてくれたからね。特別さ、ふふふ。
けれどもいやはや私もこの話をするのは久しぶりでね。
言い忘れたりもするかもしれないけど、ゆっくり聞いてくれよ。
あぁ、今日はお代は結構だよ。君に申し訳がない。ようやくか。くくく。
あぁ、いや、こっちの話さ。ふふ、まぁ、せいぜい聞いてくれよ。「笑い話」だから。
あれは2年前だったかな、関西の山奥の神社に遊びに、仕事に行っていたんだよ。
今はこんな仕事だけどあの頃はしゃんとした職についていたからね。鎮め屋とでも言うか、まぁ怪しいお仕事さ。
ふふ、それは笑っちゃうね。
その日は神社の神様が「堕ちた」そうだから鎮めにきたのだけれども、そこにいたのは堕ちた神なんかじゃなかった。
通りで村人がやけに笑っていると思ったんだ。
あれはもとより神なんかじゃない。祀りあげられた邪悪なもの。
村人は「みかづきさん」なんて呼んでいたかな?
残念なことに余所者を贄にしようとしたんだろうね。あぁ、そうだ、面白いね。
どうなったかって?もちろん、贄にされたさ。アレに捧げる贄は肉体じゃない。
精神さ。
捧げられたものは精神を少しづつ毒される。
みかづきさんが心に巣食うんだ。
呪いとも言えるだろう。うふふ
みかづきさんに憑かれたら夜に外を出られなくなる。
影が痛いんだよ。すこしづつ影が他の影に溶け込んで、消えそうになるんだ。
あぁ、面白い
贄にされた時みかづきさんの姿を見たんだ。
真っ暗な影が人の形をして立っていたよ。
口を三日月型に歪めて、唱えたのさ。
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