空き巣常習犯最後の仕事
投稿者:とくのしん (65)
って男の声が聞こえた。
近所の人間なのか、身内のものなのかわからないが、時刻は23時近くになっていたと思う。物音を立てぬようじっ・・・と身を潜めていたんだが、再度インターホンが鳴った。
するとまた
「ごめんください」
さっきの男の声がした。
そこでふと思った。近所の人間であれば、昼間救急車が来て婆さんが運ばれたことを知らないわけがないだろう・・・と。だとすれば、男は親族の者だろうか?そんなことを考えていると
「ごめんください」
と、また声がする。
その声を聞きながら随分しつこい男だと思った。それにこんな夜更けに、しかも一人で住んでいる婆さんの家に何の用があるのだろう・・・?考えると不自然なんですよね、そんな時間に男が尋ねてくるのも。
だってそうでしょ?年寄りの一人暮らしだ、やることなければとっとと寝るでしょ。実際、ワタシもこの家についてはあれこれ調べたけど、夕方5時には雨戸を閉め始めるんですよ。だからそんな遅い時間にわざわざ家を訪ねる用事があるのかと思うじゃないですか。それにどこの爺さん婆さんだって今時はみんな携帯は持っているだろうし、仮に持っていなくても家に電話くらいはあるじゃないですか。現に玄関の横に電話があったのを見ていますし。
仮に親族の者だとして、婆さんが入院することになって着替えなど取りにきたとすれば、わざわざ「ごめんください」と声をかける必要がありますか?ないでしょ。
それじゃワタシの同業者かと言えば、まぁご丁寧にインターホン鳴らして「ごめんください」なんて馬鹿正直に声をかける間抜けはいませんわな。
とすれば・・・今、玄関の外で呼びかけてくる男は一体何者なんだろうと、冷静に考えてみたら何だか背筋が寒くなってきましてね。
近所の人間や身内の線が薄いとなると、ワタシがこの家に空き巣で入ったことがバレたのか・・・?もしかして懐中電灯の明かりが漏れていたのかとか、それとも物音を誰かが聞きつけてきたのか、そんなことを色々と考えていると
「ごめんください」
またも男の声がした。どうしようか?どこに隠れようか?色々と迷っていたところ、ふとあることに気づいた。今の呼びかけがね、やけに鮮明に聞こえた気がしたんです・・・。
いや・・・”気がした”んじゃない。間違いない・・・家の“外”の声じゃない。家の“中”から聞こえたんだと。
だがおかしい・・・玄関を開ける音は一切しなかった。とすればどうやって家の中に・・・そう思っていると
ギシ・・・ギシ・・・ギシ・・・
誰かが・・・いやあの男に間違いない。階段をゆっくりと上がってくる音が聞こえてきた。それは間違いなく、確実に、ここに迫ってくる。
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とくのしん