Aはもう居ないのに、どうして学校に現れたのだろう。
Aと一緒に肝試しをしたB達を狙っているのだろうか。
こんな遠目から見てもひしひしと伝わる悪意を受けて、俺は鳥肌を立てていた。
俺の他にアレが見えている人は恐らくいない。
逆にそれが俺の不安を掻き立てていた。
他の人が見えていないのに俺だけが見えている事をアレに気付かれたら、きっと俺にも不幸が降りかかる。
今更ながらこれまでの軽率な行動を省みて俺は気取られないように視線を外した。
だが、視線を外していても校門の方からは視線の圧を感じる。
どうしてもその圧に耐えられなかった俺は、極力顔を向けないように目の端で校門に並ぶ影を見てしまった。
ああ、見るんじゃなかった。
その影の中の一つにAの姿があった。
なんでこんな離れた距離からはっきり捉える事ができたのかは分からない。
それでもはっきりとAの顔を捉えてしまった。
影の集団の一つに溶け込むように、暗くどんよりとした表情を浮かべたAが恨めしそうに校舎を見上げていた。
もしかしたら仲間を妬んでいるのかもしれない。
肝試しに行った仲間を。
どうして自分だけがこんな目に遭うのかと呪っているのかもしれない。
発端は自分の不注意かもしれないが、どうして、どうして、と。
そんな憶測を広げたところでAや黒い靄の集団が何を目的で校門に集まっているのかは分からない。
しかし、俺はそんなAを見ていてある事が頭を過った。
Aは俺が黒い靄を見えている事を知っているじゃないか、と。
俺はAに黒い靄について話しかけた事がある。
そえは言い換えれば、俺は黒い靄の存在に気付きながらAに何もしなかったとAに思われていても不思議じゃない。
もしかしたらAはB達部活仲間ではなく、俺が目当てなんじゃ…。
そう思っておずおずとAの表情をうかがうと、虚ろな顔をしたAと目があったような気がした。
そして、Aは僅かに口角を上げるのだ。
その日から俺は姿が反射する鏡やガラスを直視できなくなった。
姿見は勿論、スマホや窓ガラス、果てはボールペンの僅かな反射にさえ、黒い人型の影が俺の背後に写り込む。
うっかり教室のドアの正面に立てばガラスに映ったソレを見て「ひッ!」と悲鳴を上げそうになるほどビビる。
不貞腐れて授業中以外は居眠りする日もあったが、ふと顔を上げれば黒い靄が目の前を支配していて、思わず両手で払い除けた事もあった。
それは皮肉にも、かつてAが繰り返していた奇行を俺が辿っているようにも思えた。
今回の話も怖かったっす
怖い怖い
怖いとかじゃなくて、普通に超迷惑やん。
Aはもっと苦しんで呪われればいい。