4歳の息子の熱が下がらず、妻と二人で息子を連れて市民病院に訪れた時のことだ。
僕と妻、息子の3人は院内の待合室のソファーに座り、診察の順番を待っていた。
平日の10時。僕たち以外にもソファーに並び診察を待つ患者が数人いる。
その時。
1人の看護師が目に入った。
僕は、何故かその看護師の姿に見入ってしまっていた。
看護師が、待合室の奥のほうからこちらに向かって歩いてくる
そして、ソファーに並ぶ診察待ちの患者の、
一人一人の背後から、
耳元に向かって、そっと何か囁いていた。
コートを着た男性に「あと14612日」と。
年配の女性に「あと9850日」と。
肥満体型の中年に「あと3456日」と。
車椅子に座る老人に「あと569日」と。
…それは、日数だった。
奇妙な事に、囁かれた人達は皆、その声に反応しない。看護師の姿も見えていないようだった。
そして、僕らのところにも、その看護師はやってきた。
看護師が囁く。
僕にではなく。
妻にでもなく。
妻に抱かれた4歳の息子の耳元で。
「あと3日」と。
妻も他の患者と同じく、看護師の姿も声も聞こえていない。
看護師の姿をしたソレの去り際。
ソレが後ろを振り返る。
深く、暗く、真っ黒な瞳で、ソレは僕を凝視していた。
3日後。
冷たくなった息子の亡骸を抱きしめて慟哭する妻の姿を見て、僕はその数字の意味を知る。
ソレは、気付いてはならないものだったのだ。
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