文字通り『消えてしまった』お姉ちゃん
投稿者:峰 (38)
昔参加した合コンの席で、参加者のとある男性がひどく酔っ払った。ぐでんぐでんに酔ったせいなのか、彼は突然、「俺、昔お姉ちゃんがいたんだよね」と言い出した。
「今はもういないんだけどさ」
もしかして亡くなってしまったとか、そういう話だろうか。その場に緊張が走った。
しかし男性は笑いながら、「小学二年生までお姉ちゃんがいて、毎日一緒に遊んでたんだよ。お絵描きしたりおままごとに付き合わされたりして。
小学二年生の夏休みに、田舎のじいちゃんちに泊まりに行った時にさ、近所の悪ガキにそそのかされて、俺、度胸試しですごく高い木に登ったんだ。それはじいちゃんちの裏にある神社の境内の木だったんだけど、そこから俺、飛び降りようとしたんだよ。そしたらお姉ちゃんが「やめなよ、取り返しがつかないことになるよ」って止めるんだ。でも俺、悪ガキたちにビビリだって思われたくなくて、「別にいいよ!」って叫んで飛び降りちゃったんだ。
そしたら案の定大怪我して、俺気絶したらしいんだよね。
病院に運ばれて、目が覚めたら両親が泣きながらそばにいたんだ。俺、ぼんやりしながら「お姉ちゃんは?」って聞いたんだよ。そしたら二人とも、「なんのこと?」って言うんだ。
俺が続けて「お姉ちゃんは家に帰ったの?」て聞いたら、父さんがきょとんとした顔で「お姉ちゃんてなんのことだ?」って。
「だから、俺のお姉ちゃん……さっきまで一緒にいたじゃん」て俺が繰り返すと、両親が顔を見合わせる。
「あんた、お姉ちゃんなんかいないでしょ。一人っ子なんだから」
はあ?って思って、俺、両親がおかしくなったんだと思った。
でもおかしくなったのは俺だったんだ。
ちっちゃい頃から事故の当日までお姉ちゃんの記憶はいっぱい覚えてるのに、現実にはお姉ちゃんがいた痕跡が、どこにもないんだ。
お姉ちゃんの部屋もないし持ち物もどこにもない。
俺は頭を打って変になったと思われて、しばらく頭の病院に通わされたよ。
俺もだんだん、事故のせいなんだ、お姉ちゃんなんか本当はいないんだって思うようになった。
でも、先月実家の倉庫を片付けてたら、出てきたんだよ。
お姉ちゃんの描いた落書き帳が3冊くらい段ボールに入ってたんだ。
お姫様の絵で、俺は一緒に色塗りをしたのをはっきり覚えてる。
両親に聞いたら「学校の友達か誰かのを間違えて持って帰ったんじゃない?」って言うんだけど、絶対お姉ちゃんのなんだ。
俺にはやっぱり、昔お姉ちゃんがいたんだよ。
でもお姉ちゃんはもうどこにもいないんだ」
この話をしたときの男性は、顔は笑っているのに目が完全に据わっていて、不気味だった。
男性のお姉さんはどこへ消えたのだろう、と今でも時々思い返す。
絶望的な怖さ
怖すぎる・・・。
切ないのと怖いのと両方の感情になりました。
それって、この男性だけが『お姉ちゃん』のいないこちら側の世界線に飛んだってことですかね?向こう側の世界で木から飛び降りた男性が死んだ瞬間に、こちらの世界線と入れ替わった的な。。
それとも、死なずにそのまま意識だけが向こう側から来ちゃったのか…神社の境内の飛び降りた木がワープポイントになってたのかな…?