空き巣常習犯最後の仕事
投稿者:とくのしん (61)
長年刑事をやっていると、一つや二つ不可思議な出来事に遭遇することはある。俺が挙げた犯人(ホシ)の一人に松木ってケチな窃盗犯がいてな。空き巣の常習犯で、まぁこいつとはなんだかんだ長い付き合いだった。
しょっ引いては出所てきて・・・の繰り返し。何度松木から「心を入れ替えます」と聞いたもんだか。そうそう、松木の親父っていうのはどうしようもない酒乱でな、飲むたびに家族に暴力を振るうどうしようもないヤツだったそうだ。それに耐えきれなくなった母親は蒸発。残された松木は父親と二人、それは貧しい生活を送ってきたそうだ。そのとき松木は小学校二年生、父親は働かないから食うに困ってな。それで松木は盗みを覚えたと言っていた。壮絶な幼少時代を送ってきたって話でさ、それは確かに同情する話さ。だからといって生い立ちや境遇を理由に、犯罪に走っていいわけがない。それを何度も諭したし、松木本人も受け止めていたように思う。しかし、人間一度楽を覚えちまうとなかなか抜け出せないんだよ。
そんな松木がさ、一度だけ出頭してきたことがあった。自分から空き巣を働いたと。
ちょうどその頃、管轄内で連続の空き巣事件が多発していたときでさ。手口から真っ先に松木を疑っていたんだが、あるときパタリと事件が止まった。それから1ヵ月程してからだよ、松木が自分から出頭してきたのは。
そのとき取り調べをしたのが俺だったんだけど、どうにも松木の様子がいつもと違った。普段は取り調べをのらりくらり躱そうとするような掴みどころのないヤツなんだが、どうにも様子が落ち着かない。言い換えるなら何かに怯えている様だった。
松木は開口一番こう言った。
「黒田さん、ワタシはもう盗みはやめる。きっとバチが当たったんだ」と。
こいつは何度もこんなことを口にしていたから、またかと思った。どうせこれもいつもポーズだろうと。しかし、松木の怯えきった姿を見て、いつもと違うとも感じた。そうして松木は怯えた様子で話を始めた。
黒田さん・・・まず、この話をする前にこのあたりで起こした空き巣は、5件・・・いや6件か。それらはワタシの仕事だ。それは嘘偽りなくワタシがやったことだ。素直に認める。
で・・・だ。ここから話す内容は、本当に荒唐無稽な話になるんだが、信じてくれという方が無理なのは承知で話をしたい。
何度もしょっ引いてくれた黒田さん、あんたに聞いてもらいたくてワタシは出頭したんだ。その気持ちだけは汲んで欲しい。
・・・ほんの一か月程前の話だ。ワタシはここから少々離れた場所にいた。
ワタシもこの稼業が長いからね、そろそろ足がつきそうだと勘が働いてね。それでとある田舎に身を寄せていたんだよ。潜伏先と言いますか、そこである家が目についた。
その家には婆さんが一人で住んでいてね。ワタシの調べじゃどうも一人暮らしをしていたんだ。リフォーム業者装ってあたりの聞き込みをしたりしたけど、あの家には婆さんが一人住んでいるって近所の人間もそう話してた。
しばらく様子を伺っているうちにさ、その家に救急車が来たんだよ。どうも婆さんが倒れたって話で。
その日、一日張っていたんだけど、夕方過ぎても婆さんが戻ってくる気配はなかった。それじゃ夜に入ろうと思って家に戻り準備をした。それで22時過ぎに仕事を始めたんだよ。玄関の裏手に回って、勝手口を開けて中に入った。広い台所があってね、そこを抜けると居間があった。婆さんが食っていたんだろう、ちゃぶ台にはせんべいやら茶菓子がそのままになっていた。懐中電灯の明かりが外に漏れないよう気をつけながら、その横にある棚を漁ってみたらすぐに金目の物が見つかってね。
それらを拝借したあと、隣の襖を開けるとそこは仏間。仏間にしてはなかなか広い部屋でね。梁にはご先祖様の遺影がいくつもあったな。ワタシもこの稼業は長いとはいえ、遺影は何度見ても慣れないもんでさ。なんか見られているような感じがするじゃないですか。それはそうと仏壇やらなんやら漁ってみたらそれなりに目当てのものが見つかって。
こりゃ幸先いいなと思いながら部屋を出た。部屋を出ると長い廊下が広がっていてさ、左右にいくつか部屋があった。玄関の方に目をやると、右手に階段がありまして。
ゆっくりもしていられないってんで、一階をしらみつぶしに進みながら階段までやってきた。
無人の家とはいえ、物音立てないように静かに二階に上がると、廊下がまっすぐ伸びた先に左右に二つずつ部屋があった。手前の部屋から順に調べてみるが、二階はめぼしいものはなくてね。最後に右奥の部屋にお邪魔しようかというときに事が起きたんですわ。
襖に手をかけたとき、突然玄関のチャイムが鳴りまして。
ピンポーン・・・・て。
さすがにドキっとしましたよ。すかさず
「ごめんください」
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とくのしん