結婚式場に現れた喪服の老婆
投稿者:峰 (38)
これは、友人のNさんが実際に体験した話です。
今から10年ほど前、Nさんは結婚式場でアルバイトをしていました。主に担当していたのは披露宴でのサービススタッフ。コース料理を運んだり、参列者の要望を適宜聞いたりする仕事です。
接客が好きなNさんは、結婚式場での仕事にやりがいを感じて、毎日楽しく働いていたそうです。
その日もNさんは、午後から入っていた一組の披露宴に、スタッフとして配属されました。
式が始まると、Nさんは会場の隅で待機しながら、披露宴の様子を眺めていました。
披露宴はトラブルもなく和やかに進行していきます。
その式は参列者の友人や職場の人たちがかなり多く、今までNさんが担当した中でも抜きんでて人数の多い回でした。
新郎新婦は揃って美男美女。人望があるのでしょうか、二人の周りには話したり写真を撮ったりするために、常に人だかりができています。皆に心から祝福されているのが、Nさんにも伝わってきました。
また、親族たちも皆感じがよくて、Nさんは「こんな幸せな結婚って本当にあるんだな、羨ましいなー」と思っていたそうです。
そのままいつも通りに仕事をしていたNさんですが、ふと小さな違和感を覚えました。
新婦側の親族席。
おそらく祖父母だろうと思われる老人が並んで座っているのですが、おばあさんが一人、多いのです。
おじいさん、おばあさん、そしてまたおばあさん。
あらかじめ確認した座席表では、新婦側のお年寄りは祖父母の二人だけだったはずです。
お料理の量や内容に変更があると聞いていたので、間違いありません。
「ん?なんで?」と目を凝らした瞬間、Nさんは「ハッ」として、慌ててその老婆から目を逸らしました。
その老婆は、真っ黒な喪服を着ていたのです。
そして、参列者と参列者の間のわずかな隙間に、小さく挟まるようにして座っているのです。
(見てはいけないものを見た)と思ったNさんは、それ以降、喪服の老婆をスルーして仕事に務めました。
しかし、ふとした瞬間に、その老婆が視界に入ってくるのです。
しかも、気がつくと老婆がいる位置がコロコロと変わっているのです。
壁際に移動していたり、新婦の職場関係の方の間に座っていたり、新婦友人席の近くに立っていたり。
そのうち、Nさんは気がつきました。
もしかして、あの老婆は少しずつ花嫁に近づいているのだろうか……?
まさか、と思いましたが、その予想を裏付けるかのように、老婆はゆっくりゆっくりと花嫁の方へ移動していきます。
そして、披露宴のクライマックス。
花嫁が、両親にあてた手紙を読み始めた時です。
スポットライトが当たる花嫁のすぐ後ろ──肩に顔が触れるか触れないかというほど間近に、あの老婆が立っていました。
花嫁が手紙を読み進めるに従って、老婆はニヤニヤと笑い始めました。
老婆の目は白眼がなく真っ黒で、皺だらけの顔を歪めて笑う口には歯がなく、そのあまりの不気味さにNさんは逃げ出したいほど恐ろしくなったそうです。
老婆のニヤニヤ笑いはやがて、空気が漏れるような笑い声に変わっていきました。
そのタクシーが帰りに事故にあったとかじゃないといいですね...
花嫁さんが幸せに暮らしている事を祈ります。