身代わり
投稿者:cocoro (16)
兵庫県の有名な紫陽花寺に行った時の話です。
その日は、柴犬のAちゃんと私と母と父そして弟の4人で紫陽花寺に遊びに行きました。
私はその当時小学4年生、弟は小学1年生でした。
そのお寺は、その当時知らなかったのですが、江戸時代初期に播磨西国三十三箇所第20番霊場に選ばれた霊験あらたかなところで、本尊には、十一面観音菩薩様がおられ、脇侍として不動明王様と毘沙門天様がひかえていらっしゃるそうです。
そのお寺は、春には桜、夏の入りにはたくさんの紫陽花、秋には紅葉がみられる花のお寺と呼ばれるところで、母は、花が好きでこの花のお寺と言われる場所が大好きでした。その日は、桜祭りが開かれていて、私たち家族は、桜をみるためにそこへ連れていかれました。
子供にとっては、桜よりもそこに飛んでいる蝶や葉にぶら下がるカマキリ、草の上のバッタに興味があり、花々はとてもきれいだったのですが、すぐに飽きてしまいました。
柴犬のAちゃんも飽きたうちの一匹で、歩くたびにとぶバッタを追いかけて、綱をぐいぐい引っ張ります。
お寺から道を外れて子供だけでAちゃんとお散歩をする方が楽しくなってきました。父と母は花をみて、私たちはお散歩を楽しみました。
車を止めていた駐車場からお寺までの道の横に山があり、何本か道が分かれていて、子供でも山にすぐに入れるようになっていました。
入ろうかと考えていると、母と父が私たちを見つかってしまいました。
私たちが退屈している様子に気づくと、山菜狩りに行こうと言い出しました。
そこで、私達姉弟はなんとか狩りというものが大好きで、山菜狩りという言葉がとても魅力的に聞こえ、すぐに同意しました。
いこいこ!とAちゃんを引っ張って山の中へどんどん進んでいきました。
マムシに気を付けなあかんぞ~!と父。でも柴犬のAちゃんがいるのでちっとも怖さを感じませんでした。
父と母が最初にワラビをみつけました。ワラビというものがどんな形をしているか知りました。
ゼンマイというものもおいしいし食べれるとしり、見渡すとあちこちにワラビやゼンマイがあり、夢中でとりました。
どんどん山の中へ入っていき、気が付けば柴犬のAちゃんの手綱は弟がもち、父と母は幼い弟と同じ方向へ、私だけが違う方向の道をたどり、かなり離れたところまで来ていて、姿は見えないけれど声だけが聞こえるような位置関係でした。
周りには柴犬のAちゃんもいないし、父と母もいないとなると急に不安になって、立ち止まりました。手にはワラビがたくさん入ったナイロン袋をさげて。
ふと、目の前の木の根元に殺気のような近づいてはならない気配を感じました。よく見ると落ち葉の模様の中にとぐろを巻いて、三角の頭と鋭い目つきでこちらに鎌首を持ち上げてじっとみている蛇がいます。あと大きく1歩踏み出したら足が届く位の距離にいました。1mも離れているかいないかの近さでした。
見た瞬間、これはさっき父が言っていたマムシだとすぐに分かりました。
頭の中で警鐘がなっています。動いてはダメと。誰か助けて!と心の中で叫びました。
その瞬間本当に一歩も動けなくなってしまったのです。そして、マムシの目から自分の目を離せなくなってしまいました。
声を出すことも怖かったですが、叫んでマムシをびっくりさせないように普通の声で
『お父さん。マムシや。』
と言いました。今思えばよく父の耳に自分の声が届いたなあと不思議に思うのですが、父が
『どの辺におるんや、近くか?体は銭形の模様か?こっちにこられるか?』
と聞くので、
『めっちゃ近くや、動けん。マムシや。とぐろ巻いて鎌首あげとる。。。』
と、できるだけ叫ばずに普通の声で心臓が止まりそうなほど、ドキドキしながら、とんでくるな!助けて!逃げたいよ!と心の中で悲鳴をあげながら伝えました。
体中が熱くなるのが分かります、でも指先は冷たいのも分かります。
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