春が来る
投稿者:四川獅門 (33)
A子さんにはちょっとした秘密がある。
A子さんは子供の頃、黒い柴犬を飼っていた。
「はるちゃんって言うんです。物心ついた時からそばにいて、私は一人っ子でしたから、なんというか兄妹みたいに大切で」
「親に怒られたり、友達と喧嘩して落ち込んでると、いつもはるちゃんが心配そうに寄り添ってくれました」
A子さんはある日、庭ではるちゃんとボール遊びをしていた。ボールを転がして持って来させたり、ボールを隠して探させたり、空中キャッチもできた。夢中で遊んでいた、その時だった
「投げたボールが、道路に……」
はるちゃんは帰って来なかった。車に轢かれたのだ。
日が暮れかけた頃、お父さんとお母さんと3人で、裏山にはるちゃんを埋めた。小さな木の下ではるちゃんは眠った。寒い冬の日だった。
「それから毎日泣いてました。自分のせいだと思う気持ちもあって。とにかく寂しくて寂しくて……」
数ヶ月経った頃、A子さんはある事に気付いた。忘れ物をして先生に怒られた時、友達と喧嘩した時
「甘い香りがするんです」
悲しい時、決まってその香りがした。
「あまり気に止めていなかったんですが、悲しい時にその香りがするっていうのはなんとなく感じていました」
ある暖かい春の日、A子さんは両親に頼んではるちゃんのお参りに行った。A子さんはその光景に息を飲んだ。
はるちゃんが眠る場所には満開のツツジが咲き誇っていた。
ふと甘い香りがして、A子さんは泣き崩れた。
「その時気付いたんです。甘い香り」
「ツツジの香りだったんです」
A子さんは涙ながらにそう語った。部屋にはツツジの香りが漂っていた。
イッヌ優しいね
切ないけど優しい話だ
素敵な話、ワンコは一緒にいてくれてるんですね